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『とある成りあがりの物語/リエンス家について』
東洋 夏
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(※以下の文章は、FT新聞様に掲載していただいた同名の記事に加筆修正したものです。FT書房の皆様、掲載の機会を頂戴し、誠にありがとうございます)
◇
FT新聞をご覧の皆様、こんにちは。
本日は東洋 夏(とうよう なつ)がお送りいたします。
また出たなこの暑苦しい妖怪、と思われました皆様も、今回はアランツァ世界の歩き方として活用できる部分もありますので、どうかお付き合いいただければと存じます。
さて今回は、先ごろ発表された神聖都市ロング・ナリクのシナリオ『廃城の秘宝』に登場した冒険者「ソール・オ・リエンス」くんに関連して「リエンス家の歴史について」を語らせていただきます。
と申しますのも、リエンス家なる存在は、大変光栄なことに拙リプレイから公式採用していただいたものだからなのです。
彼ら彼女らをアランツァ世界に生み出した「親」といたしましては、プレイヤーの皆様に愛していただけるように、そしてリエンス家がますます栄えるようにサポートする 責務がございます。
親馬鹿ですね。
親馬鹿ですが、しかし親にしかできないこともあります。
この場合は公式設定を皆様のお手元に届けることが、それです。
リエンス家とは何者か。
どのようにして現在の、ロング・ナリク随一の富豪と成り得たのか。
その物語にしばし耳を傾けていただきたく存じます。
◇
1、
リエンス家の歴史は実のところ非常に浅いのです。千年を誇るロング・ナリクの歴史の前では、リエンス家の年代記などほとんど「点」に過ぎません。しかしながら、いつの時代にも特異な立身出世は起こりうるもので、その輝きこそが歴史に華を添えるのです。
2、
さて拙リプレイの主役ソールの祖父の代から、リエンス家の物語は始まります。ロング・ナリクの南東に広がるかずら森。その森番のひとりだったソールの祖父タイドは、ある日ふらりと森に現れた魔術師に、こう吹き込まれます。
「君に機会を与えよう。僕の言う通りにやれば、君は幻の獣に触れることが出来る」
3、
気まぐれな天才と称されていた魔術師の言葉に、タイドは光を見ました。生活は苦しく、かずら森の危険性は森番の報酬にはまったく見合っていません。いつかこの暮らしを脱したいと願っていたのです。
藁にも縋る思いで魔術師に渡された二本の矢を手に、愛用の弓と共に早朝のかずら森へ向かったタイドは、今までに目にしたことのない獣――後にトブケールと名付けられる幻の獣に出会いました。警戒心が強く身軽なトブケールは、森を熟知した人間の目をいとも容易く逃れるものなのです。けれどもその日、獣は逃げも隠れもしませんでした。
タイドが素早く矢を射かけると獣は魔法によってすうすうと眠り始め、連れ合いを心配して出てきたもう一頭にも矢を放つと、こちらにも見事に当たって、やはり眠り始めました。恐る恐る魔術師に渡された首輪と鎖を付けてやると、目覚めたトブケールは大人しくタイドの後をついて歩くようになったのです。
4、
かずら森の狂暴な植物たちに手を焼いていたロング・ナリクの王宮に、しがない森番が幻の獣を捕らえて馴らしたという噂が届きます。当時の王ロイス・ヴァロワは早速その森番と獣たちを呼び出すことにしました。
タイドは、恐らくは相手が雲の上の存在であり過ぎたが故に、物怖じすることなく森の生態やトブケールのことを滔々(とうとう)と語ります。トブケールのつがいは我が家のように王宮の絨毯に転がり、森番のすねに頭を擦りつけています。
感銘を受けた王は森番の功を認め、トブケールの飼育繁殖に向けた責任者としてタイドを任じ、その資金源としてかずら森で獲れたものの一部を売却する権利を彼に与えたのです。
またトブケールの飼育に向けた土地として、王都の南西側に広がる王領の一部を切り取り、下賜されています。破格の待遇でした。とはいえ後のリエンス領となるその土地はドラッツェンとの戦闘で壊し尽くされ放棄された村の跡地であり、タイドが領したときはただの荒れ地でしかありませんでした。
5、
ところでタイドという男には隠れた商才がありました。幻の獣という刺激的な話題に飢えていた上流階級の屋敷や教会に呼ばれるうち、「デザイン」に通じるようになります。
タイドは荒れ地を粘り強く開墾しながら、かずら森で捕らえた獣の革や、不思議な植物から取れる糸を扱う工房を開き、そこで衣類や小さなアクセサリーを作ることにしました。自分の目で見た「デザイン」を取り入れ、洗練させながら。これが当たったのです。
6、
しかし財をなすほど、由緒正しい血統ではないタイドに対する風当たりが強くなってきました。そこでタイドは勝負に出ます。財産をかき集めて騎士の席を買い、一粒種の息子を送り込みました。
息子ブラークは見込み通り優秀な騎士として名声を得て、上流階級からも無視できない存在になるのです。騎士ブラークが正式な行事や謁見に臨む際には抜け目なくタイドがデザインした衣服を着ていきましたので、ますます商売は栄えました。
7、
血統の枷はブラークにもついてまわり、正式に聖槍士軍の騎士として認められるまで他家の子息には課されない程の厳しい実績を求められました。そのためラドリド大陸のあちこちを巡り、沢山の危険な冒険をこなしていきます。
高潔で勇敢な遍歴の騎士ブラークのエピソードは貴賤を問わず人気があり、それだけで食べていけるとして「吟遊詩人の詩養い(うたやしない)」と呼ばれるほどです。
8、
リエンス家の運命を変えた狩猟に際して、タイドは弓を用いました。そのためリエンス家では運命を切り開く武具であるとして、弓術を重んじます。
ロング・ナリクでは隣国ドラッツェンの戦争兵器「ウォードレイク」に対抗するべく弓と言えばロングボウの技術が中心ですが、リエンス家では森の中でも取り回しの良いショートボウの技を磨いています。
9、
現在のリエンス家は、家長ブラークを頂点としてロング・ナリクの服飾業界を取り仕切っています。名家から庶民の市場まで出入りするリエンス家の人脈は、ロング・ナリクの表裏にじわりじわりと広がっているとのこと。次代の長と見込まれている長男ノックスは聖騎士として父以上の才能を持つとも噂され、更なる飛躍が見込まれます。
10、
唯一、不和の種があるとしたら、ブラークに複数の(※現在公認されているのだけで6名の)がいることかもしれません。血統の裏付けが欲しいリエンス家と、財産を求める諸家の間には、政略結婚という形で共謀関係が結ばれています。その多くはブラークに娘を嫁入りさせるという格好です。娘を送り込んだ家や、子供たちの野心の程度によっては、跡継ぎ争いが加熱する可能性は否定できません。
11、
その跡継ぎ争いの圏外にいる変わり者の息子として人々の噂に上るのが、六男のソール。父と同じように、ただし騎士ではなく冒険者として各地を飛び回っては個性的な仲間とつるんでいるのです。父から離縁されたのだとか、はたまた秘めたる野心があるのだとか、色々な評がある模様。リエンス家を経由せず、ナリクの現国王カール・ヴァロワ直々に雇われて、かずら森への作戦に従事したとの情報も入っています。彼の真意は果たして……?
12、
なお、リエンス家はナリクでの権勢に甘んじず、国外とも商取引を広げている真っ最中。最遠の取引相手は海を渡って東の国、キョウの都にいるとも噂されます。
商隊の護衛任務や、新素材の開発に関わる冒険、はたまた商売上の障害を取り除く手助けを求めるなど、冒険者の雇用機会も多岐にわたっておりますから、冒険者である皆様が関わることもあるでしょう。
リエンス家は種族や身分にこだわらず、実力で人間をはかります。
もしあなたが求めるならば、どうぞリエンス家の門を叩いてください。
◇
ということで以上がロング・ナリクのリエンス家にまつわる物語と相成ります。
ローグライクハーフの面白いところは、規約に“あなたの「ローグライクハーフ」作品に登場させたd66ならびにキャラクターや世界観の設定は、他の「ローグライクハーフ」で使用されることがあります”とある通り、プレイヤーの働きかけによって世界が拡張していく可能性を持つという点です。
今回の公式採用が、その良い一例として機能すればよいなあと思っています。
沢山のアランツァ世界を探索する皆様にリエンス家の人々が愛されることを(たまには敵方として憎まれるかもしれませんが)、祈るばかりです。
もしもあなたのシナリオやリプレイに彼ら彼女らが登場した折には、そっと耳打ちしていただくと大変喜びます。
どうぞよろしくお願いいたします。
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(付記)リエンス家の紋章について

上図はリエンス家の正式な紋章です。
冒険者としてロング・ナリクへお越しの際は、リエンス家から仕事を引き受ける機会もありましょう。あるいはリエンス家の仕立て屋で一張羅を整える必要だって、発生するかもしれません。
そんな時に会話の糸口として役立つよう(そして雇い主の機嫌を損ねるのは得策ではありませんし)、紋章に込められた意味について、いくつか解説をしておきましょう。
・紋章の天辺、クレスト(兜飾り)の位置には、セルウェー教で神聖視される太陽が掲げられています。セルウェー神の良き信徒であること、加護への祈り、神の騎士として戦うことが示されています。
・紋章中央の左右で盾を支えるサポーターは、左にかずら森のトブケール、右に立ち上がる駿馬が配されます。トブケールを捕らえたことが家運上昇の鍵になったことは御存じの通り。「捕らえた」ことを示すため、首には鎖が巻かれています。
・右の駿馬は謙遜と挑戦を匂わす選択で、リエンス家らしい選択と言えましょう。まず馬というのは、ナリクにおいてはグリフォンの「下位」にあたる生物です。それが太陽に向かって勇ましく進もうとしている。つまり立ち上がる駿馬に込めたリエンス家の思いは――今は皆さまより下流の我が家だが、いずれ先達をことごとく追い抜いて見せるぞ。その勢いたるや、セルウェー神に恩寵に照らされて旭日の如くになるであろう——となりましょうか。紋章の発表時はナリクのサロンで大いに物議をかもしたそうです。
・紋章中央部の盾を四分割して描かれるのは、左上から時計回りにトブケールの逸話に出てくる短弓、セルウェー神の太陽、かずら森に育ち繊維を供給してくれるバロメッツ、そして精緻な装飾で飾られた衣服。短弓はトブケールの方を向いていますね。また、盾の下部にはかずら森にゆかりの深いリエンス家らしく、蔓(=かずら)が巻き付いています。
・盾を支える台座部分は、千年都市ナリクを表わす強固な石畳。その上に飾られるのは、通常ならば巻物(スクロール)に記された家訓(モットー)となるところ、服飾産業の雄らしいリボンとアクセサリーとなっています。百の言葉より一巻のリボンこそ雄弁である、つまり「並びたてる美辞麗句より実物の品質で語るべし」という商人魂が宿るものでしょう。
以上、リエンス家の紋章についての概要でございました。
※なお紋章の作成はFT書房の中山将平さまにご担当いただいております。
同じくFT書房の杉本=ヨハネさまにも大いにお力添えをいただきました。
おふたかたに、この場をお借りして改めて感謝を述べさせていただきます。
それでは皆様、良きローグライクハーフを!