ローグライクハーフ『ヴォンダンス~踊らぬ犬は冬に鳴く~』リプレイ(18)

このリプレイは、

天狗ろむ様のシナリオ

『ヴォンダンス~踊らぬ犬は冬に鳴く~』

を遊んだ記録を小説仕立てにしたものです。

ハージェスの墓所洞窟で、氷漬けを免れたコボルトの少女を発見。

共に最深部を目指すこととなります。

どうやら今回は彼女の「鼻」が活きる気配!

 

シナリオ参照元:

『ヴォンダンス~踊らぬ犬は冬に鳴く~』

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[冒険記録3-3]35:食事中のゾンビ→【察知】42:血を求めし群れ

 〈食事中のゾンビ〉は10体以上ものゾンビを相手取るできごと。ウルール&デールを連れた状況ではリスクが高いかなあと悩み、ここでコボルトたちの特技【察知】を使ってみることに。まずは年長者からということでウルールくんにお願いしましたが、何と失敗してしまいます。リエンス主従の匂いが惑わせているのか……? 気を取り直してデールちゃんにお願いしたところ、出たのは〈血を求めし群れ〉。どっちもハードな気配がするものの、対象が「ランダムに一人」なら後者の方がましでしょう。折角デールちゃんに教えてもらったのですしね。ということで。

 鳥人の騎士ツェス・フォレストウィンは、落ち着かない気持ちでランタンを掲げて先頭を歩んでいる。

 一歩後ろに続くのは犬面の種族コボルトのウルールと、ウルールに従う〈奏楽ゴーレム〉だ。いつものように、主人ブラークがいるのではなく。その主人は最後方にいて、コボルトのガキ、もとい、子供の世話をしている。

「……でね、ダヴァラン殿に美味しいお弁当を作ってもらったから、私は途中で食べるのを楽しみにしているんだよ」

「うそだあ、こんな怖いところにおべんとなんて!」

「聖騎士は嘘をつかないんだよ、レディ。」

「うーそだーあ!」

 ツェスは後ろを振り返って叱りつけたい衝動を、ぐっと我慢する。主人ブラーク・オ・リエンスの意図は明白だ。コボルトの少女から信頼を得て緊張を取り除き、パニックを起こさせないこと。そのために役立つのは、ブラークの砕けた物腰と、種族の垣根を越えて好かれる明るさである。適材適所だ。

 ウルールの方が適役に思われるかもしれないが、それは誤りで、こちらに心を開かせないとハージェスと対峙した段に少女がブラークとツェスの指示を聞かず足手まといとなる可能性がある。そうなればバージェスは少女を狙うだろう。何故ならブラークは絶対に少女を庇うからだ。

 そしてウルールの僕ちゃんには一心不乱に踊ってもらわねば困る。まあ、本心を言えば、ツェスとしては悠長な手段に頼らず亡霊など善神の御力で根こそぎ消し去った方が早いとも考えているのだが。

 しかし、しかれども、理屈は飲み込めるのだが、それでもツェスはあのよく回る主人の舌ができれば自分の前、少なくとも真後ろくらいで回っていないと落ち着かない。致命的な何かから、主人を守れないような気がする。

 その時、

「ツェス、止まってくれ。その道は左に行こう」

主人の声が聞こえた。

「えっ」

と反応したのはウルールである。

「この道が最短ですけど」

「あのね、そっち、怖いのいる。沢山いるのよ」

 コボルトの少女がブラークの中指をにぎにぎしながら述べた要領を得ない話を総合すると、この道の先ではゾンビと思われる嫌らしい集団が待ち受けているということだった。

「なら、こちら側には何があるんだ」

「……」

 少女はもじもじしている。ブラークが身をかがめて目線を合わせると、コボルトの少女は彼の耳元に鼻をねじ込まんばかりにして囁いた。

「うん、うん? うん、そうか。ツェス、〈蚊〉だそうだ。蚊。私は不浄な死体より蚊の方が良いと思うんだが、おっ、こらレディ、耳にわざと鼻息を吹きかけるのはよろしくないね!」

 懐かれている。懐かれ過ぎかもしれない。取り上げるか、とツェスは思う。少女からブラークを、である。これは断じて焼きもちではない。

 ツェスは、難しい顔をしているウルールに水を向けた。

「お前の意見は?」

 水を向けられると思っていなかったウルールは一瞬ポカンとして、それから、

「僕は、おふたりの判断に従います」

と立派な受け答えをする。我ながら甘くなったなとツェスは思った。騎士が庶民に意見を聞くなどと……。それも主人から受けた長年の影響によるものに違いない。ブラークときたら、必要とあらば、路地裏の浮浪児と数年来の悪友のような顔をして話し込むこともできるのである。

 対象は「ランダムに一人」なのですが、まずゴーレムは対象外となり、残った四人を見渡した時に誰が一番蚊に刺されやすいのかは明白な気がするんですよね。

 ツェスはランタンをブラークに渡した。阿吽の呼吸というよりは、戦場で数え切れぬほどこしらえた虫刺されの経験ゆえにである。

「よろしい、ツェス。それでは私は騎士らしく、我が身を犠牲に捧げることとする」

「大袈裟な」

「盛大に羽ばたきたまえよ! では諸君、左だ」

~五分後~

「ウワーッ! ウワーッ! ウワーッ!!!」

「黙れブラーク! 口の中に入るぞ!」

「気持ち悪いんだよツェス! 喋っていないと気が狂いそうだ! それ、もっと力強く羽ばたきたまえったら!」

「やっている! お前も崇高な覚悟はどうした! 鳥人に生まれなかったことを後悔しろ!」

「くそう、反論できない! 毛皮毛皮羽毛ゴーレムで何故私だけが素肌なんだ!?」

 ウルールは目の前で展開されている状況に、深く困惑していた。無邪気なデールはきゃあきゃあ笑っているが、ウルールは笑えない。

(何なんだろう、この人たち)

 人間の方の騎士は、ぎゃいぎゃい文句を言いながら回っている。くるくる回りつつ道を進んでいるのだ。何故かと言えば、彼がどデカい蚊柱の渦の中心になっているからである。立ち止まれば一瞬の内に血を吸い尽くされるのではないか、という恐怖を傍から見ているウルールですら感じてしまう。

 その蚊柱を懸命に追い散らそうと奮戦しているのが鳥人の騎士。鼻の頭が真っ赤になるくらい力一杯、片方だけの翼を羽ばたかせて風を送っている。つまり後ろ向きに歩いている。冷静に俯瞰して見ると底抜けに間抜けな構図なのだが、しかしそのお陰で辛うじて、彼の主人は無事なのだ。そしてランタンの光と体温を目掛けて蚊が一目散に人間の騎士に集っているため、ウルールたちはたまに寄ってくるのを追い払えば、何の被害もない。

(有難いけど、でもその、騎士ってもっとパリッとして格好良い感じなんじゃなかったけ。これでハージェスに勝てるのな? 本当に? でも、ダヴァランさんが信用してるんだから、大丈夫なのかも……)

「ウワーッ! やっぱり口に入った! 風力が足りないぞツェス!」

「うるさい! お前がもっと速く回れ阿呆!」

(……駄目かも)

 ウルールは努めて深く考えないようにし、足を前に動かすことだけに集中した。

 ということで、ブラーク様に対象になっていただきました。判定は【器用ロール】(目標値4)のところ、出目「6」。リプレイ内容的にはツェスさんの器用ロールだった気もしますが。そんなこんなで賑やかに進む一行ですが、次は中間イベントです。うるさ過ぎて死霊秘術師ハージェス様がブチ切れなさっているかもしれませんが、さて何が待ち受けている事やら!

ローグライクハーフ『ヴォンダンス~踊らぬ犬は冬に鳴く~』リプレイ(17)

このリプレイは、

天狗ろむ様のシナリオ

『ヴォンダンス~踊らぬ犬は冬に鳴く~』

を遊んだ記録を小説仕立てにしたものです。

亡霊ハージェスを封じるため、いざ出発!

ハージェス復活までに残された時間はあとわずか。

聖騎士たちは急ぎ墓所洞窟に向かいます。しかし……。

 

シナリオ参照元:

『ヴォンダンス~踊らぬ犬は冬に鳴く~』

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 3回目の冒険にはウルールくんが同行します。技量点1、生命点5の戦わない従者で、必要な従者点は0です。【察知】が使えます。お鼻が良いからでしょうか。彼の生命点が0になっても敗北ですので、気を付けなくてはなりません。また、3回目の冒険のイベントはすべて【夜】の時間帯となります。より激しい戦いが待ち受けていそうです。聖騎士マッスルパワーで何とかなるでしょうか。ドキドキ……。

 

[冒険記録3-1]:16:淡光の水晶(夜)

 「隠された何か」を探すできごとになります。目標値4の【器用ロール】で判定。順当に技量点が2あるブラーク様で挑戦→出目5で成功。今回も好奇心いっぱいのご様子です。このできごとだけだと脈絡が掴めないので、次のできごとも振ってからリプレイを書いてみることにしましょう。

[冒険記録3-2]:21:怯えるコボルト(夜)

 おっと、氷漬けになっていないor自力で解いてきたコボルトさんがいるようです。反応表を振って、出目3【同行】と出ました。いいですね、新しい仲間です!

「走れウルール殿!」

「は、はいっ!」

 星月夜と、生ける屍のおめく声を背に、ウルール・ヴォンは奏楽ゴーレムの陰に隠れながら、大急ぎで墓所洞窟に向かって駆けた。

 死霊秘術師ハージェスの墓所は今、その入口から煌々と光を溢れさせて外敵を待ち受けている。誘うような明かりはハージェスの余裕が灯しているのだろうか。あるいは、別の要因で? ウルールは不安な思いを振り切るため、ただ肉球で大地を掴んでは離し、掴んでは離すことに集中しようとした。

 雄獅子の仮面をつけた頭部が足元に転がってきて、ウルールは悲鳴を上げる。転がってきた頭も腐った口を開いて、わけのわからない叫びを上げた。そこに青白に燃え立つような輝く刃が振り下ろされて仮面が真っ二つになり、その奥の頭部はたちまち塵になって風にさらわれる。

「走るんだ!」

 その光景に魅入っていたウルールは、騎士に小突かれて我に返った。

「我らの体力も時間も無限ではない。ウルール殿、さあ行け!」

 騎士の剣が一閃し、爪を振りかざして飛びかかってきた生ける屍を真っ向から切り払う。屍が屍に戻って大地に腐った染みをべっちゃりと広げる間に、騎士は続けざま二、三の敵を断ち切って、おまけに回し蹴りを加えて新手の雌獅子仮面(これもおぞましいことに、仮面の下は屍で出来ている)を粉砕すると、

「聖鎧が汚れてしまうな!綺麗にしたばっかりなのにまったく!」

と決めゼリフめいた文句を言い放った。

 ウルールは気を取り直して走り始め、洞窟の入口に駆け込む。開口部に満ちていた光は、予想外にも、まったく敵意を感じさせないものだった。

 続いて、ふたりの聖騎士が飛び込んでくる。ひとりは黒髪の人間で、もうひとりは暗い羽色をした猛禽の鳥人だ。先程ウルールを励ましながら助けたのは人間の騎士で、二人のうちでは、こちらの方が偉い。鳥人は執事と名乗っていたけれど、この場では「副官」と表現した方が正しいだろう。ふたりはよその国からやって来た聖騎士にもかかわらず、ウルールたちコボルトを助けようと尽力してくれている。

「何故ここだけ明るいんだ?」

と、人間の方。

「知らん。しかしあれらが入ってこられないなら、何でも良いだろう」

と、鳥人の方。

 生ける屍の大群は洞窟の入口手前でうろうろしているが、光の届く範囲には踏み込めないようだ。騎士たちは警戒しながらも、荒くなった息を整える。

 エンベニーの村を離れてから幾度も、死霊秘術師ハージェスの手下に襲われてきた。その度に騎士たちは返り討ちにしてきたが、お陰で到着は予定よりも遅れ、今は深更。天秤が聖騎士より亡霊に傾くであろう時間である。

 人間の方の騎士が、興味津々という様子で辺りを見渡し、壁を指さした。

「ツェス、あれじゃないか」

 ウルールも釣られて見ると、確かに壁の一部から岩が突き出したようになっており、その上が一際明るいような、光が放射されているような感じがする。

「よし、見てみよう」

「ブラーク」

「分かってる分かってる、何か見つけても勝手に触るなって言いたいんだな」

 鳥人の方が少しイラッとしたように全身の羽毛を軽く逆立てた。人間の方は全然意に介しておらず、長身をさらに爪先立ちさせて岩棚の上を覗き込む。

「おお、淡光の水晶がある! 立派な塊だが、上から剥離したわけではない……。とすると誰かが置いたのか? いったい誰が?」

「あのう」

「あ、すまないウルール殿。時間の浪費だな」

「いえ、その、見せていただいてもよろしいでしょうか。〈誰が〉は私の鼻で分かるかもしれません」

「妙案だ。持ち上げてもよろしいかな?」

「はい」

 ウルールの背丈は、人間の騎士の胸に届くくらいだ。騎士はウルールの脇の下に手を入れて、軽々と持ち上げる。緊張したが、鼻先を突き出して水晶周りの匂いを嗅ぎ分けると、意外な臭跡が明らかとなった。

「コボルトの、私の知人の匂いが残ってます! もしかしたら、まだ洞窟の奥にいるのかも……。あっ、もう少し右にお願いします」

 充分に情報を嗅ぎとったウルールは、床に下ろされると騎士に小さな水晶を手渡した。まだ使えそうなものが岩の上に残っていたのである。

 淡光の水晶、今回の使用可能回数は1d6→1でした。残念。ツェスさんに持っていてもらいましょう。しかし3回目の冒険に引き続きとは、縁がありますね。この先全部【昼】に変えてやろうか。

「有難く頂戴しよう。しかし、ふむ、同村の方かい? 氷漬けを免れたのか、呪いを解いたのか分からないが、心配ではあるね」

「はい──あっ!? デール!」

 ウルールは、洞窟の奥へ繋がる道の壁際からこちらを観察する、小さな犬影に気づいた。その匂いは、岩棚の上に置かれた淡光の水晶に残ったものと相違ない。

「デール、逃げないで! 味方だよ、助けに来てくださったんだ。出て来て大丈夫だから」

 ウルールが駆け寄ると、黒い毛並みの小さなコボルトは、しっぽを股の間に挟んでぶるぶる震えていた。耳も後ろに寝ている。

「怪我は無い?」

「なっ、ない」

「デール、この奥は危険なんだ。ここで待っていて。君の置いてくれた水晶──」

「わ、わたしもっ、手伝わせてっ」

「手伝うって」

「何かしてないと、頭がおかしくなっちゃいそう! だってお母さんも、お父さんも、凍っちゃってて、わ、私だけ……私だけ……」

 ウルールはデールを抱きしめた。同じ村で育った女の子を、放っておくことはできない。でも彼女に戦う力なんてないだろう。騎士様方も嫌がるはずだ。どうしたら無事に守り通せるのだろうか?

 その時、人間の方の騎士がやって来て、思いがけないことを言った。

「勇敢なレディ。もしかしたら君も踊れるのではないかい、その、ヴォンの踊りを」

「あ」

ウルールは蒙を啓かれた思いで、

「そうだ、デール、覚えてるよねヴォンの踊りのこと!」

「うん」

「助かった! 踊り手が私しかいないかもって思ってたんだ。とても助かるよ、デール」

「わたし、役に立つ?」

「最高に。騎士様、いいでしょうか……」

「我ら聖騎士は正義を護る者だ、一緒に行こう。むしろ外の方が危ないかもしれないからね。コボルトのレディ、私の名はブラーク。あっちのむっつりした鳥がツェスだ。覚えておいてくれたまえ」

「うん、分かった」

「デール、こういうときは「はい、騎士様」って言うんだよ」

 慌てたウルールに人間の騎士は笑ってみせ、

「良いんだ。私はそれくらい親しみを覚えてくれた方が嬉しいからね。さて、それでは進もうか!」

 ということで、コボルトのデールちゃんを仲間にしました。技量点0、生命点1、器用点2の戦わない従者で、【察知】に加えて【宝物の獲得】まで出来てしまう!怯えてはいますが、利発なお嬢さんのようです。彼女も無事に連れ帰らなければなりませんね。頑張りましょう!

 

ローグライクハーフ『ヴォンダンス~踊らぬ犬は冬に鳴く~』リプレイ(16)

このリプレイは、

天狗ろむ様のシナリオ

『ヴォンダンス~踊らぬ犬は冬に鳴く~』

を遊んだ記録を小説仕立てにしたものです。

今回は3回目の冒険に向けた助走の回。

夫を追って〈天駆ける狗〉亭に辿り着いたブランカ様の胸中。

そして必勝を期す主人公ふたりの

ステータス的な成長をお届けします。

 

シナリオ参照元:

『ヴォンダンス~踊らぬ犬は冬に鳴く~』

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[3回目の冒険・プロローグ]

 

 金属の触れ合う微かな、そして不吉な音でブランカは目を覚ました。背中には夫の形をした温もりが残っている。ぼんやりした薄闇を探るように伸ばした指先が艶やかな絹のシーツ──ロング・ナリクのブランカの寝台から、遥々チャマイまで運ばせた気に入りのもの──の上を滑り、枕を撫でて、ベッドの向こうにいる夫の髪に辿り着く。我が夫、聖騎士ブラーク・オ・リエンスは小さく驚きの声を上げた。

「ああ! 起こしてしまったのだね、レディ。すまない、私なりに静かにしているつもりだったのだけれど」

 ブランカの眠りを妨げないようにと床に置かれ最低限まで絞られたランタンの光が、黒真珠と讃えられる夫の長い髪を暗い海に見立てて、沖より立つ白波を描いている。指先に感じる髪束は常より活き活きとハリがあり、絹と張り合えるほど指通りが良い。これは非常に癪に障った。

 ロング・ナリクの名だたる聖騎士にして大商人、そして貴族リエンス家家長の栄えある椅子に座っているより、己の腕だけを頼りに無名の〈冒険〉をしている方が性に合っていると宣言するに等しい。それはつまり私よりも──と考えてブランカは知らぬ間にくるくる指先で巻いていた毛束を、力強く握り締めて引っ張った。きかん気な若駒を制止するように。

「痛っ」

「……また置いて行こうとしている」

「違うとも! 断じて私は」

 目をまん丸に見開いた夫の、その口元に手を伸ばして黙らせる。夜の静寂の内に安らぐ宿屋で大声を出してはいけない事くらい、如何にブランカが生涯一度たりともその手の施設を利用した事が無かろうとて、分かるというものだ。まして、リエンス邸のどっしりした白壁よりも厚い壁とは思えない。

「静かになさい」

 ブランカは身を乗り出して、打たれた犬のようにしゅんとした夫の、その形の良い耳を指でなぞった。

「ブランカ、君と一緒に戦場に立つ訳にはいかないんだよ」

「それが愚の骨頂であることくらい弁えています。あの小娘と同じものをねだったりはいたしません。ただ私は、真実を知らねばならなかっただけ。貴方が続報をよこさないから」

「それはその、すまなかったね」

 ブランカは一週間ほど前に夫から"友人の宿に顔を出したところ、緊急で亡霊退治を引き受ける次第となり、暫く戻れない。ついては君とドゥーオンに取引の全権を託す"という(ふざけた)手紙を受け取っている。騎士の妻として、夫の胸の内には語れない機密があるということくらいは言われなくとも分かっている。今更ぐらつく訳もない。

 しかし問題は〈噂〉だ。庶民の間に噂は野火の如く速やかに広がり、尾ひれを付けた怪魚と化して家々を泳ぎ回る。

 曰く、復活したのは古代の大魔術師であり、既に村を幾つも壊滅させた。間もなくチャマイにもやってくるだろう。

 曰く、聖騎士が再封印するつもりだったがしくじって、次の手を探しているがジリ貧らしい。

 曰く、いやいや聖騎士は返り討ちに会って半死半生だよ。従者の鳥人の方は翼が片っぽ無くなってた。

 曰く、あの〈天駆ける狗〉亭の主人が罠にはめたのかもしれん。聖騎士と因縁があったんだろう、顔を合わせた途端に怒鳴り声が聞こえたというから。

 云々。

 新型紡績機導入に向け、からくり術師のギルドホールで日々打ち合わせを繰り返すリエンス家の面々の耳にも噂の魚は忍び込み、動揺が広がっていた。ブランカも同様である。

 それで今日、〈天駆ける狗〉亭のエルフ娘が、ギルドホールにシェルムなる技師を探しに血相を変えて飛び込んで来た時、ブランカはついに辛抱たまらなくなって、制止を振り切ってただ独り馬を走らせたのだ。赤茶けた乾いた草原を駆け抜けて、真相を知りたい一心で。

 結局のところ、夫は──無事であった。

「ブラーク・オ・リエンス、誰にも心配をかけずに成し遂げた事績がおあり?」

「それは鋭い指摘だね、我が奥様。何故だろうか、私が行動を起こす度に誰かが胃を痛めているのは」

「大馬鹿者だから」

「ふふん」

 気分を害する風でもなく、夫はむしろ楽しげにに目を細めた。

「そう、私は大馬鹿者なのだよ。困っている者を放っておけない。人の善性を信じてやまない。そして私の剣が正義に役立つなら、何を差し置いても振るうべきだと確信している。齢五十に達してまだその心根だ。そう、大馬鹿者だね、レディ。心の底から謝罪する」

「本当に?」

「本当だとも」

 夫が姿勢を変え、ランタンの光が青白い鎧を雷光のように舐める。聖鎧。翌朝に纏うため手入れをしていたのだ。こればかりは腹心のツェスにも委ねない。善なる神によって認められた、高潔なる獰猛性を主張する、聖なる鎧。ブランカが生まれ育った国では〈敵〉であり〈悪〉の象徴だった。

 ここにあるのは、かの国で今でも最高に憎まれているであろう、聖騎士の長ブラーク・オ・リエンスの象徴〈白き一角獣の鎧〉。夫が長の座を降りてから、ブランカですら久しく見ていなかった。儀礼的に着る聖鎧はまた別にあり、野外での訓練などには聖鎧ではなく単なる板金鎧を着用している。わざわざ〈白き一角獣の鎧〉に出番を与えたのは、敵が相応の大物だからだろう。

「絶対に帰って来なさい」

 塗布していた聖油の清い香りが残る指先で、夫はブランカの顎をそっと撫でた。

「我が奥方──」

 その続きを、ブランカは唇を重ねて奪い去る。自分から求めてしまったことへの謝罪と、少しの恥じらいを込めて。必ず帰るなどという約束ほど、騎士の妻に虚しい言葉はないのだから。

 

◆冒険の準備◆

○前回の冒険で獲得した金貨と宝石の売却額を合計すると83枚。

・50枚はブラーク様の【神撃】に使う。

・20枚で【聖光弾】も買っておく。

・ロープは……破棄してもよいかな。

○ロング・ナリクの都市サプリで聖鎧チャレンジ【幸運ロール】(目標値6)。4+2(ブラークの技量点)でついに成功!【青の聖鎧】獲得しました。金貨150枚の支払い。板金鎧として扱われ、【生命点】+2、【防御ロール】+1に加えて【筋力点】+1を獲得します。

○♨️シナリオの天駆ける狗亭のお弁当を買って持ち込みたい!金貨5枚、1食まで。

 

サプリメント参照先:『天駆ける狗も歩けば♨にあたる』

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◆主人公のステータス紹介◆

①[ブラーク・オ・リエンス]

レベル20/聖騎士

・技量点:2

・生命点:11

・筋力点:5

・従者点:8

(保留1点)

・特技:【高潔な魂】【全力攻撃】【神の加護】【脳天かちわり】【戦場の風(←【受け流し】からの代替)】【威風】【神撃】

・従者:メイア(今回は宿でお留守番)

・故郷:ロング・ナリク

・持ち物=騎士の両手剣、エンベニーの片手剣、青の聖鎧、金貨28枚(精算後-150枚)、銀珠、パラソル・ドール、天駆ける狗亭のお弁当(成功)、淡光の水晶(6回分)

 

②[ツェス・フォレストウィン]

聖騎士/レベル15

・技量点:1

・生命点:8

・筋力点:6

・従者点:9

(保留2点)

・特技:【高潔な魂】【全力防御】【神の加護】

・持ち物=聖騎士の槍(両手武器/斬撃)、板金鎧、金貨38枚(精算後+8枚)、銀照弾、銀製のダガー、火熾しセット、蜘蛛の糸

ローグライクハーフ『ヴォンダンス~踊らぬ犬は冬に鳴く~』リプレイ(15)

このリプレイは、

天狗ろむ様のシナリオ

『ヴォンダンス~踊らぬ犬は冬に鳴く~』

を遊んだ記録を小説仕立てにしたものです。

ハージェスに操られた〈骨の王〉を撃破。

主従は奏楽ゴーレムと共に帰還の途につきますが……。

 

シナリオ参照元:

『ヴォンダンス~踊らぬ犬は冬に鳴く~』

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[2回目の冒険のエピローグ]

 ブラークが頭にあるスイッチを押すと、ゴーレムの目に光が宿って、ぷしゅーっと孔から空気を吹き出した。少しぎこちないながらも、ゴーレムは起動し、立ち上がる。胸元にある3つのランプが、2つまで点いている。残存魔力を表しているのだろうか?

 ウルールに教わった呪文を唱えると、ゴーレムはぐりんと頭を回してブラークとツェスを見た。

「ギギ、ギ、命令者の変更を確、認、儀式を開始、しししします、か」

「いや、まだいい」

「でででは、待機、モードドドにい、移行しししします」

「洞窟を離れて、私たちの後を付いてくることはできるかな。目的地はエンベニーの村だ」

「可能ですすす」

「よろしい。ではそれだけに機能を限定するように」

「了解しましま」

「実に聞き分けが良いゴーレムだ。うちの紡績機とは大違い。星五つをつけたいね」

「ユーザー評価、ありがとうございますすすすす」

「よし、それでは凱旋と行こう!」

 〈天駆ける狗〉亭に帰る途中、幼い顔のノームが木にもたれて眠っているのを見つけた。彼は人の気配に気づいて顔をあげると、眠そうに目をこすり、こちらを見上げてくる。そして、ゴーレムを見た途端に、飛びついた。

「探してたんだぞ~! どこ行ってたんだ!」

「貴殿はどなたかな」

 ブラークの声に、謎のノームはゴーレムへの頬ずりを中断して顔をあげる。そして答える前に穴が開くほどブラークを観察すると、

「ははあ! ダヴァランが言っていたのは君か。確かに確かに、ボク最大のライバルになる器だってことは認めよう。ポテンシャルはあるよ」

 ひとりで何か深く納得したようだった。

 事情を説明すると、一緒に〈天駆ける狗〉亭に連れていって欲しいというので、彼も同行させて帰還する。その間、胡散臭いものを感じてツェスはノームから目を離さないようにしていた。シェルムなるノームは徐々にブラークと喋る頻度が増えて、そこに不穏なものを感じたからだ。どうやら共通の話題を見つけたらしい。柔らかく申し上げるなら、レディを愛でるという点に関して。

 〈天駆ける狗〉亭が近づいてくると、番犬シュテルンが尻尾を振って駆け寄ってくる。一行の周りを嬉しそうに跳ね回り、人数分だけ吠えると、今度は一直線に宿に戻って行った。勤勉忠実な家臣の鏡である。ツェスはいたく感心した。リエンス領の犬たちも、これくらい仕込めれば良いのだが。

 シュテルンに呼ばれて、〈天駆ける狗〉亭からダヴァランとウルールが出てきた。

「ただいま!」

 ブラークが大きく手を振ると、ふたりは妙に引きつった顔で唇に人差し指をあて、静かにするようにと必死に訴える。

「一体全体、何事なんだい?」

 ダヴァランがブラークの肩を引っ掴んで言った。全く目が笑っていない。

「坊ちゃん……。お前、何をすっぽかして此処に来たんだ!?」

「あー、商売上の会議だね」

「それだけじゃないだろう」

「というのは?」

 その時、ダヴァランの逞しい背中の後ろから、ウォー・ドレイクも尻込みしそうな殺気が立ち上った。

「どきなさい」

 ひゅっ、とブラークは息を飲み、ツェスは頭をかき、ゴーレムに乗ったノームは冷やかすように口笛を吹く。

 ダヴァランが横にずれると、そこに黒髪の麗しい女性が、背筋を鋼のように伸ばして立っていた。黒い瞳は怒りの坩堝となり、ただひとり、ブラークにだけ注がれている。彼女は最新の流行を捉えた──むしろ彼女のプロモーションにより最新のデザインとなった流線型のドレスとは似つかわしくない、無骨な剣の柄に手を置いていた。

「ブラーク・オ・リエンス。義務を思い出させなければ、大人しく座っていることすら不可能?」

 ブラークはじりじりと後退りをし、

「レディ、我が奥方、義務というなら私は聖騎士の義務を果たす必要が、あのだね、落ち着いて弁明を聞いていただけるだろうか。剣から手を離して」

「その情けない口調をやめなさい。今すぐ!」

「ひん」

 情け容赦のない平手打ちが、パン! と小気味よくエンベニーの村に響き渡る。その音にウルールは驚いて身を縮めながら、ちょっと不謹慎かなと思いつつ、花火の音を思い出していた。『霊鎮めの儀』が終わったあとにはいつも盛大なお祭りがあって、コボルトには高価な花火なども、その日ばかりは奮発して打ち上げられるのである。もっとも、ウルールはあまりにも音が大きいので、毎回びっくりして皆に笑われていたのだけれど。

 じわじわとウルールは寂しくなってきた。村人たちは氷漬けのまま、誰一人として、もう笑ってはくれないのだと思ってしまうと。

「ご覧ブランカ、あの気落ちしたコボルト殿を。彼の村は亡霊によって氷漬けにされてしまっているのだよ。救えるのは私とツェスだけだったんだ。片や我らがリエンス家の商談の卓には煌めく才能が山ほど集っている。例えば我が奥方だ。任せたって小揺るぎもしない。そうだろう?」

 ふん、とレディ・リエンスは形の良い鼻をそびやかした。そっと彼女のつむじに唇を落としたブラークの頬は、右も左もリンゴが恥じらうほど真っ赤である。

「ということでね、ブランカ。解決まではどうか許してくれたまえ。あともう少しのはずだ」

「許すのは解決まで」

「はい」

「約束を違えたら──」

「待て待て、君が私の首をはねたくならないように善処するし、ちゃんとその後は約束通り砂漠の観光をしよう。チャマイの宿泊ならドゥーオンに延長するように伝えれば良いし」

「もう手配済み」

「おお、流石ドゥーオン、計算通りと言うわけだね。ということで我がレディ、安心してチャマイに戻って好きなだけ好きなことをして待っていてくれたまえ」

「嫌」

「うん?」

「一単語くらい聞き取りなさい。私は、嫌、と言った」

「ああ、ええとだね、我がレディ。……つまるところ?」

「ここに泊まります。傾いてない寝床くらいはあるのでしょう」

 ブラークがちらりと目を上げると、今度はダヴァランが頭を抱えていた。

 

[二回目の冒険、完]

 

獲得アイテム:吸血鬼の恋人たちの加護、金貨83枚(道中で拾得した金貨&宝石の売却額合計)、淡光の水晶(6回分)、ロープ

 ということで、ブラーク&ツェス主従による『ヴォンダンス~踊らぬ犬は冬に鳴く~』2回目の冒険でした! 楽しくて手ごわい中級の旅! ここまでお付き合いありがとうございます。もちろん3回目にも挑んでまいりますので、引き続きよろしくお願いいたします! そして幾つか大きな反省点がありまして、まずは中間イベントで「淡光の水晶」の効果を忘れていてブラーク様がボコボコにされましたね。アンデッドに対する防御をカバーできたのに……。そして最終イベントに到ってようやく思い出したのですが「技量点入ったならアンデッドにも効く【神撃】を覚えとけばよかったじゃん、絶対アンデッド出るのに!」という。ブラーク様ご本人の技量とタフネスで両方とも押し切ってくれましたが、3回目の冒険では忘れずに参りたいと思います!

ローグライクハーフ『ヴォンダンス~踊らぬ犬は冬に鳴く~』リプレイ(14)

このリプレイは、

天狗ろむ様のシナリオ

『ヴォンダンス~踊らぬ犬は冬に鳴く~』

を遊んだ記録を小説仕立てにしたものです。

ツェスさんの道具袋の中がロープだらけになってきましたが、

恥ずかしくなると長いものを握りたくなる習性でも……?

それはそうと罠を突破した主従は、洞窟の奥へ進みます。

 

シナリオ参照元:

『ヴォンダンス~踊らぬ犬は冬に鳴く~』

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[冒険記録7]13→最終イベント:骨の王

 「おっ、あれが噂の〈奏楽ゴーレム〉だな、ツェス。無傷に見えるが、ハージェスはここまで来ていないのか、それとも手を出せないのか、あるいは私たちとこれから事を構えようとしているのか。はてさて……」

 棺を見守るように、丸っこくて愛嬌のあるフォルムのゴーレムが立っていた。二人は慎重に近づいて様子を窺う。オードリーの棺に近づく敵と認定されて、暴れ出すかもしれないからだ。

「俺たちへの反応は無いか。ちゃんと動くんだろうな?」

「ウルール殿が申されていたのは、ツェス、確か……っ!」

 ブラークは言葉を切るなり飛び退いた。足元の土が横一列にボコボコと沸き立つように盛り上がり、白骨化した手が次から次へと土を突き破って現れる。

「ハージェスが置いていったのは、〈引っ立て屋〉だけでは無かった訳だ! ツェス、私たちは大いに評価されているようだね」

「そして、先の戦いも応えているのだろうな。

さて骸骨などは蹴散らし……」

「待ってくれツェス。これはコボルトの骨じゃないか」

 産声のような甲高い鳴き声を上げながら這い出てきた骸骨たちに肉をつければ、それはコボルトの姿になるだろう。ハージェスは墓所洞窟に眠っていた死者たちを、穢したのだ。

 最後にブラークよりも背の高い、際立って大きな骸骨が土より現れ出でる。その頭には王冠があり、両の手を広げて、その左右の手に握り締めた錆び付いた剣を誇示する。往時は名剣であり、そして彼か彼女かは偉大なるコボルトの王であったのだろう。

 最終イベントは強いクリーチャー単体+弱いクリーチャー複数の組み合わせ! いいですね、中級らしい激闘の予感!

 登場しましたのはまず〈がい骨〉。出現数1d6+3で今回は7、レベル3。強いクリーチャーである〈骨の王〉はレベル5、生命点5、攻撃回数2。特殊攻撃は行わず、シンプルにタフで硬いタイプですね。いずれも骨なので打撃に弱く、弓に強いのですが、斬撃筋肉野郎ふたりなのでタイプ相性は働きません。真っ向勝負と参りましょう。

 「コボルトたちよ、よく聞け! 貴兄らは仇敵に操られている!」

 ブラークの言葉に帰ってきたのは、笑うように骨を鳴らし、嘲るように体を揺らす音ばかり。もはや骨に残った意識はなく、あくまでもハージェスの命令に従って二人を阻む構えだ。

「とことん趣味の合わないレディだな」

 ぼそりと宙に落としたその言葉に、ブラークの強い怒りが籠っている。ツェスは銀のダガーを抜きながら、

「暴れるなら好きなようにしてくれ」

と言った。

 0ラウンド。もう出し惜しみの必要はございませんので、ブラーク様は〈骨の王〉に対して【戦場の風】を選択。出目6でクリティカルをしましたが、残念ながら連続攻撃不可の技能でした。とはいえ2点ダメージで相手の出鼻は挫けたでしょう!

 1ラウンド。ブラーク様は0ラウンドに動いたため待機(※)、ツェスさんの攻撃は〈がい骨〉に振り、クリティカル→成功で2体撃破! 防御はすべて均等に割り振った結果、ツェスさんが〈骨の王〉に対する防御をファンブルして負傷してしまいました。(※よく考えたら【戦場の風】は接近戦の武器で攻撃しているので持ち替えの必要が無く、別にブラーク様も動けたのでは……と今更思いましたが、今回は処理漏れですね)

 分かった、と言うが早いかブラークは両手剣を横に一閃。鋭く薙ぎ払われた空間は衝撃波となって〈骨の王〉に襲いかかる。巨大生物すら断ち切る【戦場の風】だ。

「ギャウォッ!?」

 胸骨の粉塵を宙に撒き散らしながら、〈骨の王〉が引っ繰り返る。両手を振り回した〈王〉に巻き込まれた配下の〈がい骨〉達が態勢を崩したところに猛禽の面目躍如、ツェスがすかさず襲いかかり、銀のダガーで頭蓋骨を粉々に砕いて回る。

 しかし〈骨の王〉には抜け目がなかった。予想外の速度で跳ね起きた王は、錆びた剣をツェスに激しく突き入れる。鳥人の体は宙を舞って、墓所の壁に衝突した。

「ツェス!」

 駆け寄ろうとするブラークを〈がい骨〉が阻む。

「ウォーオーーーン」

 〈骨の王〉が勝利を告げるように雄叫びを上げた。にじり寄る〈がい骨〉。その背後から迫る小山のような〈骨の王〉。

 2ラウンド。ブラーク様は〈骨の王〉への攻撃を試みます。クリティカル→成功で連続攻撃を浴びせ、〈骨の王〉の生命点1まで追い込みました。

 しかし怒り── ハージェスへの怒りであり、傷ついたツェスに対する怒りでもある──に心を燃やしたブラークには、何の障壁にもなり得ない。

 聖騎士は張り詰めた弓弦の如く蓄えていた筋力を全て、解き放った。ひとつ跳んでは骸骨たちの頭上を越え、もうひとつ跳んで〈骨の王〉の体を駆け上がり、王冠を頂く脳天に力の限り剣を撃ち込んだ。ヒイーッ、という悲鳴を上げて〈骨の王〉がめちゃくちゃに体を振り回す。ブラークは配下の〈がい骨〉に飛びつかれたが、それでもしぶとく〈骨の王〉にしがみついていた。

 引き続き2ラウンド。ここで畳みかけようとツェスさんは〈骨の王〉への追撃を選択……が、ファンブルしてしまいます。さっきのが痛かったんでしょうか。防御はブラーク様が〈がい骨〉から一撃、ツェスさんも〈骨の王〉から一撃を浴びます。

 他方、主人に続こうと〈骨の王〉に駆け寄ったツェスは先程の痛みがまだ響いて、気合いと釣り合う程には体が動かない。近寄れもせずに銀のダガーを虚しく構えたところに、あばれまわる〈骨の王〉に跳ね飛ばされる。致命傷は避けたが、肋骨に鋭い痛みを感じた。

「チッ、これでは俺の面子が立たん!」

「無理をするなツェス!」

 3ラウンド。ブラーク様が〈骨の王〉への攻撃を決めて沈めます。ツェスさんはまだ御身体が痛いのか〈がい骨〉に対して攻撃ファンブル。

 しかし3ラウンドの防御全成功かつ〈骨の王〉がいなくなったことで主従は波に乗りました。4ラウンドの攻撃をブラーク様がクリティカル→クリティカル→成功成功、ツェスさんがクリティカル→成功と大暴れして、残りの5体を一気に制圧してしまいました。

 ブラークが再び〈骨の王〉の体をよじ登る。〈王〉は聖騎士を振り落とそうと体を捩るが、しかしブラークは止まらない。一撃のもとに〈王〉の脛骨を砕いてしまった。

 ぐらりと倒れ行く〈骨の王〉から飛び退いたブラークは、着地するなり好戦的な気分に身を任せて縦横に剣を振るう。あっという間に〈がい骨〉の群れはその勢い押されて一体、また一体と数を減らし、気づけば墓所に静けさが戻っていた。

「ツェス、大丈夫か?」

「この程度、何ということもない。それにお前より討った〈がい骨〉の数は多いんだからな」

 ツェスが四本の指を立ててみせると、ブラークは口を尖らせて、

「あの〈骨の王〉は一体で五体分くらいに計算してもらわないと割に合わないぞ、ツェス!」

と抗議するのであった。

ローグライクハーフ『ヴォンダンス~踊らぬ犬は冬に鳴く~』リプレイ(13)

このリプレイは、

天狗ろむ様のシナリオ

『ヴォンダンス~踊らぬ犬は冬に鳴く~』

を遊んだ記録を小説仕立てにしたものです。

亡霊ハージェスの精鋭部隊を退けたふたり。

麻痺も癒え、お腹も満ちて、再出発です!

 

シナリオ参照元:

『ヴォンダンス~踊らぬ犬は冬に鳴く~』

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[冒険記録6]43:吊るされたもの(夜)

 トラップの〈できごと〉を引いてしまいました! 対象は主人公ひとり。ここはダイスにお任せしましょう。奇数が出たらブラーク様、偶数が出たらツェスさんが対象です。それではロール。出目は……「2」。ツェスさん頑張れ!

 墓所洞窟にはところどころに分かれ道があり、その先には幾つもの部屋が作られている。オードリー・ヴォンのみならず、歴代のコボルト達がこの墓所に眠っているのだろう。

「もう少し詳細に道順を聞いてくるんだったな」

と、ブラークがこぼした。

「こうも暗いと、不安になってくる」

「今のところはウルールの言った通りに進んでいるはずだが。しかし、お前が不安になるとは珍しい」

「君と二人の時くらいは不安でいさせてくれないか、ツェス」

「分かった分かった。ご当主様というのも、楽では無いな」

 奏楽ゴーレムの安置されている部屋の位置を説明したウルール・ヴォンは「お二方には迷いようがありませんよ」と太鼓判を押したが、それはコボルト基準だったに違いない。恐らくは〈パラソル・ドール〉に残ったオードリーの「匂い」を辿れるとでも思っていたのではないか。人間も鳥人もコボルトのように鼻が利く訳ではない、というのを前提に置いて話さねばならなかったと、ブラークもツェスも反省しきりである。やはり戦場の最前線にいた時よりは、肉体的な冒険に対する勘が鈍っているのだろう。

 ブラークがぴたりと足を止めた。

「ふむ、この道は部屋を貫いているのかな? 珍しい造りだ」

「俺が先に偵察する。ここにいてくれ、ブラーク」

ランタンを掲げて、ツェスが暗い部屋の内側を照らし出す。がらんとしていて、敵の気配は感じられない。

「どうだ?」

「今のところは、待ち伏せも無いようだ」

「ふむ、単に用途が違う部屋ということかな」

「ただ天井が高いな。どこまであるのか光が届かん。ブラーク、上に注意──」

 一歩進んだツェスの足に縄が巻きつき、強烈な勢いで引っ張った。ツェスは転倒しながらも咄嗟の判断でブラークにランタンを手渡す。

「ツェス!」

「そこにいろ!」

 トラップの難易度は【器用ロール】(目標値5)。【斬撃】の武器を持っていると+1ボーナスがつきます。ダガーも槍も該当しますので、ツェスさんは恩恵を得られますね。それでは判定していきましょう。技量点で判定して出目は……3! ギリギリセーフ!!!

 縄はツェスを引っくり返し、逆さまに吊り上げる。しかし、歴戦の鳥人執事は冷静であった。銀のダガーを迅速に抜き放ち、聖騎士として鍛えられた腹筋を支えに足首の綱をすっぱりと切り離す。

 まだ身長の倍ほどの高さまでしか吊り上げられていなかったことも幸いであった。空中で一回転しながら翼を、片方だけだがまだ残った翼を広げると、瞬きの間だけ飛ぶ感覚を思い出す。強烈な切なさを覚えているうちに翼は空気を掴み、落下の速度が多少なりと低下して、蒲公英の綿毛のようにとは行かなかったがツェスは無傷で着地した。

「ツェス」

 ランタンの光が揺れている。屈伸した膝を伸ばして立ち上がると、少年の如くきらきらと目を輝かせた主人が待っていた。

「何だブラーク、その顔は」

「翼というのはね、やっぱり格好いいものだと思ったのさ。君の気分が伴う時に、また見せてくれたまえ」

 ツェスは苦笑しつつランタンを受け取る。この主人ときたら、ツェスの最大の傷ですら美しさに変えてしまうのだ。それで自分が死にかかったことなど、とうに忘れたという顔で。

 ツェスは照れ隠しに、

「綱を拾っていこう。何かに使えるだろう」

と言って、ブラークに背を向けた。

 ということで〈ロープ〉を獲得しました。〈蜘蛛の糸〉に引き続き二本目のロープ。ロープを拾いまくるツェスさんです。【気絶】の技も持ち合わせておりませんのに……。ということで、照れ隠しにしてみました。

ローグライクハーフ『ヴォンダンス~踊らぬ犬は冬に鳴く~』リプレイ(12)

このリプレイは、

天狗ろむ様のシナリオ

『ヴォンダンス~踊らぬ犬は冬に鳴く~』

を遊んだ記録を小説仕立てにしたものです。

いよいよ中間イベント。

ブラーク・ツェス主従の前に、

新たな脅威が姿を現します。

 

シナリオ参照元:

『ヴォンダンス~踊らぬ犬は冬に鳴く~』

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[冒険記録4]中間イベント:亡霊の手下たち

 さて、ふたりが火を消して再出発の用意を整えている折、暗い洞窟の何処かからペタペタパタパタと足音が聞こえてきた。

「む、何であのゴブリンが戻ってくるんだ?」

 首を傾げたツェスが、ランタンを足音の方に向ける。

「さっき君が小突き回していたあの哀れなゴブリンの事を言っているのかい、ツェス?」

「哀れではなく、馬鹿の間違いだ」

「それは──」

 ブラークは剣を抜き放った。

「それは、恐ろしい鳥人よりも恐ろしい何かに出会ったのではあるまいか?」

 足音が近づいてくる。ランタンの明かりを目掛けて一直線に、迷いなく。

「助けてー! 旦那様方、ゴブリン助けるー! あいつらに見つかった!」

 光の輪の中にわたわたと飛び込んできたゴブリンは、羽毛を逆立てたツェスの顔を見て「ヒャッ」と言ってからブラークの後ろに回り込んだ。

「ゴブリン殿、何事かな?」

「ヘイ旦那様! 怖い取り立て屋のお出ましよ! ゴブリン何もしてない。ちょっと爆破しただけ!」

「あー、それは何もしていない内に入らないのでは?」

「ブラーク、馬鹿に構うな。この蜘蛛糸で縛って置いておけば引っ立て屋とやらも手間がかからんだろう」

「しかしねえ、ツェス……」

「〈困っている〉か? ああ困っているな。自業自得だ。出て来いゴブリン」

 ゴブリンがブラークのマントに半身を隠しつつ中指を立てたので、ツェスは素早く手を伸ばしてその首根っこを掴んでやろうとしたが、動作は途中で止まった。ただならぬ殺気を感じたからである。

 整然とした足音を立てて確かに何かが近づいてきていた。〈引っ立て屋〉などというゴロツキめいた名称とは程遠い、良く訓練された軍靴の響きである。

「離れていなさい。あちらに別の通路がある。天井に気をつけて行くんだ」

「ヘイ旦那様、ゴブリン一生の恩よ。ナイス恩」

「良いから行け!」

 ゴブリンが泡を食って走り去ったのと数秒の差で、一糸乱れぬ行軍を続ける〈引っ立て屋〉の一群がランタンの光に浮かび上がって、ブラークとツェスの間合いの外で停止した。

「なるほど」

と、ブラーク。

「レディからのお出迎えということか」

 〈引っ立て屋〉は生ける屍の軍勢であった。金属鎧は胸を護るのみだが、それは屍であることを生者に知らしめるため。腐れて爛れ落ちた肉体を誇示し、恐怖を煽るための演出だろう。

(それに、突かれても痛手にはならないということだ。胸以外は……)

 相手の数が多い以上、迅速に弱点を見抜かなければ押しつぶされる。ブラークは〈引っ立て屋〉を観察していた。

 各々が仮面を被っている。それは先に亡霊ハージェスの墓所洞窟で見た呪いの仮面によく似ているが、品質はこちらの方が格段に上だ。あれは封印儀式用の仮面の模造品ではなく、〈引っ立て屋〉の仮面の失敗作だったのかも知れぬとブラークは直感的に思う。

 仮面の意匠は猫のようだ。しかし決して、家でネズミを獲って重宝され、あるいは貴婦人の膝に抱かれているような猫ではない。堂々たる捕食者の面立ちをしている。

 先頭に立つ一体が漆黒の面、それ以外は黄色の毛並みに斑紋のある面。

「分かったぞ、ツェス。この仮面は、こないだ毛皮を輸入した、オセロトルという獣だ」

「謳い文句は戦士の獣だったか?」

「レディの仕立てた腕利きの近衛兵ということだろう。まったく光栄な対応だね」

 オセロトル仮面を被った〈引っ立て屋〉というのは独自の設定でございます(※シナリオには「グール」とのみ記載あり)。ハージェス様を妖艶な虎獣人風のレディにしましたので、同じく大型猫科のオセロトル=ジャガーにご登場いただきました。出現数11、レベル4。防御失敗で【麻痺】をもらう可能性があります。

 〈引っ立て屋〉のオセロトル隊は、一斉に剣を抜いた。

「目を瞑れ!」

 懐に突っ込んだ手を引き抜くなり、ツェスは仕込んでいた〈聖光弾〉を高々と放つ。強い光が洞窟内に弾け、そして天井辺りに固着した。

 〈引っ立て屋〉の二体が光を嫌って仮面を押さえて蹲る。期待したほどの動揺は得られなかったが、算は乱した。

 あまりにも数が多いので、ツェスさんの〈聖光弾〉を使用します。これはふたつの効果を持ったアイテムで、まず①【器用ロール】に成功すると敵の攻撃回数を2減らします。目標値4、ツェスさんの技量点でロールして、成功。そして②現在の〈できごと〉が終わるまでの間、ランタンなどの攻撃を手に持っているのと同様の効果が得られるので、ツェスさんがランタンを置いて両手武器を扱えることになります。頭数を素早く減らすためには結構大きい効果ではないでしょうか。

「ブラーク、今だ」

 ツェスは無用になったランタンを脇に置き、背に括ってあった槍を持つ。その間に飛び出した主人は、果敢にも中央の漆黒オセロトルに一直線に挑みかかっていく。それこそ、ブラーク・オ・リエンスだとツェスは歓喜に囀った。漆黒オセロトルも既に枯れ破れたはずの喉から咆哮を上げて、聖騎士の挑戦を受けて立つ。

 0ラウンド、ブラークの遠距離攻撃は強敵相手に使うべき内容なので温存。1ラウンドの攻撃に進みます。ツェスは武器を持ち替えますので攻撃不可。ブラークの攻撃は、出目1……1!? どうしたんでしょう。実は目を瞑り損ねたのか? ううむ、防御ロールに答えがあるのかもしれません(フラグ)。敵の攻撃回数は9回。ブラーク5、ツェス4で割り振りました。さあどんどん振……待った、ブラーク様、一撃目から「1」です!

 真っ直ぐに激突したブラークの剣は漆黒オセロトルの剣を易々といなし、その勢いのまま胸を突いて一撃の内に粉砕する。漆黒オセロトルは上半身と下半身に分断された。が、しかし、恐るべきことに止まらない。

 空中で遊離した漆黒オセロトルの上半身は、何の損傷も無かったかのように滑らかに騎士へ迫り来る。屍に握られた剣は、動揺で瞬間的に固まったブラークの、その磐石だったはずの板金鎧の隙間を的確に突いて肌に達した。何たる達人の技か。最初からいなされるように誘っていたのだ。

 防御ロールに失敗したので【幸運ロール】(目標値4)を実施します。ブラークの技量点で対応して、出目1。まさかの連続ファンブル! これでブラーク様は【麻痺】を受け、すべての【判定ロール】に-1のペナルティを受けることになってしまいました。なお、この一撃以外は防御ロールすべて成功です。

 ブラークは咄嗟に拳で相手の面を殴り飛ばそうとしたが、これを漆黒オセロトルはひょいと後ろに反ってかわす。剣先の抜かれたところから鈍い痺れが体を這い回り始め、ブラークは呻いた。

 どっと殺到してきた斑紋オセロトルたちの剣を、主従は息を合わせて何とかしのぎ切る。ツェスはその中で、ブラークの異変を察していた。反応速度がいつもより一段遅い。ツェスがカバーに回るなど早々無いことだ。槍に持ち替えていて良かったと思う。

「麻痺毒だな」

「ああ、刃先に塗ってある。君も気をつけろ、ツェス」

 ブラークは利き腕では無い方に剣を握り直す。両手剣だが、どちらの腕を軸にするかで感覚は大いに変わる。それでも対応が出来るように鍛錬は積んでいるが、神経に薄布をかけられたような、ぼんやりした反応しか返さない利き腕には大いに不安を覚えた。

 【麻痺】をここで治療する方法はありませんので、運を天に願って力押しするしかありませんね。2ラウンド、ふたりとも攻撃成功。防御はギリギリな出目もありましたが、何とか全成功。

 〈引っ立て屋〉の一群はじりじりと散開して主従を取り囲む。ならばと主従は同時に仕掛けた。

 ブラークは手近にいた斑紋オセロトルの仮面を叩き割った。途端に屍の体から力が抜け、ぐしゃっとその場に潰れて動かなくなる。

「ツェス、仮面を狙え!」

「承知」

 俊敏に繰り出された槍は、仮面ごとオセロトルの頭部を貫通した。やはり屍は動きを止めて崩れ落ちる。

 3ラウンド、ブラーク様攻撃成功。ツェスさんはクリティカルからの成功! 良い感じに削れてきました。防御全成功。

 弱点を早々に暴かれたが、〈引っ立て屋〉の戦意に低下は見られない。ただ一人、漆黒オセロトルだけが──いつの間にか体はすっかり元通りになっていたが、不機嫌に唸った。それを合図に、力を失った仲間を踏み潰して斑紋部隊が攻撃を仕掛けてきた。さらにその上を飛び越えて漆黒の隊長がブラークに襲いかかる。

「手強いな」

 〈引っ立て屋〉は屍だが、はっきりした戦略を持っていた。漆黒オセロトルはブラークの麻痺した利き手側を執拗に狙って攻め立ててくる。傷は増えないものの麻痺毒の回った腕から垂れた血が洞窟にしたたり、斑紋オセロトルたちが歓喜に喚いた。

「ブラーク」

「いい。君は君の戦闘をするんだ。着実に」

 ツェスの槍が続けざまに斑紋オセロトルの仮面を叩き潰す。ブラークは漆黒オセロトルに向かっていくと見せて剣を逸らし、その横のオセロトルを頭蓋から一刀両断にした。にやっと笑って見せると、漆黒オセロトルが喉の奥から地を這うような唸り声を返す。

 4ラウンド、ブラーク攻撃成功。ツェスは一撃目にクリティカルが出ますが、連続攻撃とはならず。防御はここでブラーク様にファンブルが出て、ダメージ1。

 挑発に応えた漆黒オセロトルは剣を捨ててブラークに組みついた。地に倒されたブラークの喉元目掛け、屍は大きく口を開いて牙を剥き出しにする。その頭をブラークは横から張り飛ばした。ぐにゃっと大きく曲がって逸れた漆黒オセロトルの頭に、ブラークの肩を狙っていた別のオセロトルの剣がどすっと突き立つ。

「ぐおぉぉぉぉぅぅぅ!?」

 苦悶する漆黒オセロトルを振り払い、起き上がりざまにブラークはその仮面を叩き切った。

「素晴らしい戦略だったね。仇になってしまったが」

 ブラークの目は、自分を突き倒した漆黒オセロトルのさらに上から剣を構えた斑紋オセロトルの姿を捉えていたのである。仮面を破壊されなければ痛手にならないのだから、漆黒ごとブラークを地面に縫い止めることも彼らの策のひとつだったのだろう。

 頭目を失った〈引っ立て屋〉の動きは散漫になった。しかし退却の判断はできないらしい。ブラークが麻痺した腕を庇いながら着実に相手を切り倒していく一方、気炎を上げたのはツェスである。大胆に長弧を描いた長槍は唸りを上げて、オセロトルたちの頭部を横薙ぎに払って仕留めていった。

 5ラウンド、ブラーク攻撃成功。そして絶好調ツェス先生がクリティカル→クリティカル→成功で残りのオセロトルを丸ごと撃破し、戦闘終了でございます。

 聖槍士軍ブラーク隊で長らく称えられた通り、〈水を得た魚、槍を得たツェス〉は死天使の如き大暴れ。最後に勢いのついた完璧な一振りで三体をまとめて沈黙させると、両の足で地面を踏んでいるのは主従のみとなった。

「ふうーっ! 終わったな。助かった、ツェス」

 利き手をふらふらと頼りなく振るブラークを上から下まで査定してから、ツェスは休息を宣言する。急速に腐敗が進む〈引っ立て屋〉の屍の臭わないところまで歩いてから、まずまず乾いた場所を見つけて、再び火を熾した。

 【麻痺】は食事によって癒えるとのこと。素晴らしいことに〈火熾しセット〉を使って食事にひと手間加えると回復量が3に上昇するため、ブラーク様の体力を全開させることができます。

「ブラーク」

「うん?」

「まだ口は利けるようだな」

「何でちょっと残念そうなんだ」

「静かで良いかと思ってな」

「ふ、寂しいくせにいたたたたた!」

「まだ痛覚もあるな」

「このっ、痺れてる方を抓(つね)るんじゃない!」

「元気で何よりだ。何か食えそうか?」

「空腹の極みだよ。さあツェス、抓った罰として調理したまえ。私の荷物袋にダヴァラン殿が詰めてくれた食料がある。せっかく火を熾したんだから、パンとチーズを軽く炙って食べさせてくれ。干し肉も乗せよう。あっ、なんだその顔は。私は怪我人だぞ」

 一通り文句を言ってから、ブラークは水筒の蓋を痺れていない方の手で器用に空けて、喉を潤した。戦いに火照った体に、清らかな水が巡っていく。微かに痺れが薄らいだように感じた。

 麻痺は広がってはいかないし、強くなることもない。即効性はあるが、致死性はない。つまりハージェスは我々を生きたまま捕らえたかったのではないか。捕らえてどうしたいのかは、あまり考えたくないなあとブラークは思った。