ローグライクハーフ『ヴォンダンス~踊らぬ犬は冬に鳴く~』リプレイ(8)

このリプレイは、天狗ろむ様のシナリオ

『ヴォンダンス~踊らぬ犬は冬に鳴く~』

を遊んだ記録を小説仕立てにしたものです。

今回は2回目の冒険のプロローグ。

冒険の始まりはもちろん〈天駆ける狗〉亭から。

さあ、我らが聖騎士殿が階段を下る足音が

聞こえてきたようでございます。

 

シナリオ参照元:

『ヴォンダンス~踊らぬ犬は冬に鳴く~』

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[プロローグ]

 ふあ、と欠伸をしながらブラーク・オ・リエンスが階段を下りてきた。端正な顔が台無しである。

「坊ちゃん、相変わらずいいご身分だな」

「快適な寝床だったからね。おはよう、ダヴァラン殿」

 残った欠伸をきゅっと噛み締める顔は人間種族の五十歳とは到底信じられず、ダヴァランは彼がまだ十代の青臭い青年のままであるような気が、どうしても拭えない。

「まったく! 太陽はとっくに昇っているぞ」

「あんまり早く食堂に顔を出すと質問攻めに会う、と忠告したのはダヴァラン殿だろうに」

「まあそうだが、それにしても限度はある」

 食堂にはブラーク以外に客はいない。勝手知ったる我が家という様子でカウンターに腰を下ろしたブラークは、おたまで大鍋を掻き回すダヴァランを興味深そうに眺めた。

「すっかり板に付いたものだね」

「お前がすっかりお貴族様になったようにな」

 くすくすと年齢不詳の聖騎士は笑い、ダヴァランは朝食の一品目、根菜と豆の温かなスープを、幾千の手と幾万の料理が往来して磨かれた光沢艶やかなアイアンウッド製の天板の上に置いた。

 粉チーズをかけたスクランブルドエッグ、カリカリに焼いたベーコンを乗せたグリーンサラダ、香辛料を効かせたチャマイ風ピリ辛マトンソーセージ、蜂蜜をかけた黒パンに、搾りたてのミルク。次々にダヴァランが並べる料理を、ブラークは幸せそうに微笑みながら、丁寧かつ上品かつ断固たる勢いで胃袋に詰め込んで行った。食べさせ甲斐のある男であることは認めざるを得ない。鼻の頭に蜂蜜をつけているのにも気付かぬ様子で朝食と組み合っているブラークは、お貴族様という枠からは完全にはみ出した、やんちゃ坊主に毛が生えた程度の生き物に見えた。むしろ幼くなったとすら思えるような……。

 ダヴァランの脳裏に、

(つまりね、完璧さを求めるレディもいれば、不完全性を欲するレディもいるという事だよ。分かるかなダヴァラン殿?)

という、数十年前に聞いた台詞が再生された。

「ははあ……」

「んー?」

「鼻の頭に蜂蜜付いてるぞ、坊ちゃん」

「おや、それは失礼」

 親指で蜂蜜を掬い取り、ぱくりと口にくわえたブラークの姿を見て、ダヴァランは思わず念を押した。

「絶対に、ディジベラには手を出すんじゃない。約束しろ」

ブラークは口に指を入れたまま笑い始める。

「私のことを何だと思ってるんだ!?」

「さかりのついた貴族のお坊ちゃんは、何を仕出かすか分からないと相場が決まっている」

「出さないよ。出さないとも。私にも見境という単語は存在するんだからね。それより私は、ダヴァラン殿との空白期間を埋めたいんだ。顔を合わせたのは二十年ぶり、いや、もっとか?」

「そうだな。ここの村に落ち着いて手紙を出したのが……いつだったかな、ちょっと待て」

 そうやって積もる話をしている内に朝食はみるみる片付き、食後の茶を出した辺りで、ディジベラがウルールと、ブラークの忠実なる腹心ツェスを連れて帰ってきた。

「ただいま、ブラーク様にパパ」

「「おかえり」」

 同じタイミングで発声してしまったことにダヴァランは唖然とし、ブラークはカウンターに突っ伏して笑う。

「仲良しねえ」

ディジベラが喜色満面で言うと、

「仲良しじゃない」

「仲良しだよ」

また二人は同時に答えるのだった。

 反射的にダヴァランがブラークの襟首を引っ掴むと、ツェスの猛禽らしい鋭く目が細められ、冷ややかな警告の眼差しがダヴァランに注がれる。ダヴァランはさり気なく(ブラークに弱気と思われるのは癪なのだ)突き放すように手を離した。

「ディジー、異常はなかったかい」

「大丈夫。ハージェスが追いかけて来た気配は無いって、ウルーソ牧師も確かめてくれたわ」

「なら良かった」

「じゃあパパ、私はシェルくんを呼びに行ってくるから!」

「待ちな……」

 風のように飛び出して行った愛娘を止め損ねて、ダヴァランは言葉の続きを溜息に代える。

「元気なレディだ。しかし良いのかな?」

「まあチャマイへ行くだけなら、危険もないだろう」

番犬の元気に吠える声が、ゆっくり遠ざかって行く。ディジベラの番も立派に務めてくれるはずだ。

「ああ、父親というのは難しいね。……さて、私たちも行かなくては。ツェス、鎧の着付けを手伝ってくれ」

 軽やかに椅子から下りたブラークに、影のように鳥人が付き従う。

「気をつけろよ」

 ダヴァランの言葉に、ブラークはひらひらと軽やかに手を振ってみせた。次なる目的地はオードリー・ヴォンの墓所である。そこに『魂鎮めの儀式』のもうひとつの要、奏楽ゴーレムが眠っているという。墓所と言ってもハージェスのそれよりは剣呑な響きではないが、かの大亡霊が座して見守る訳もあるまい。

(信じるしかないが……。いや、考えすぎか)

 ダヴァランはおずおずと食堂の隅に座ったウルールにミルクを出してやることにし、懸念を頭から締め出した。

 

◆冒険の準備◆

〇『天駆ける狗のディナーは■ミの鍋』収録のサプリを使用し、〈天駆ける狗亭の朝食〉をいただきます。ひとりあたり金貨5枚。【幸運ロール】(目標値2)に挑戦して成功、マスター様作の美味しい朝食をいただきました。体力・副能力値の最大値上昇と、任意のタイミングで【判定ロール】に+1できる素敵な効果が得られます。判定に失敗するとどうなるか。ディジベラちゃん様の、その、あの、あれです、詳しくは後述のサプリをお確かめください!

〇ブラーク様の故郷=ロング・ナリクで都市サプリを使用し、〈青の聖鎧〉チャレンジ! 一刻も早く欲しい。希少な装備品の為、購入には【幸運ロール】(目標値6)の成功が必要となりますが……またも出目2で失敗……。そんな……。

〇前回の冒険で「大ぶりな水晶(金貨50枚相当)」「蜘蛛の糸」「パラソル・ドール」を獲得しています。水晶は売却して山分け。ドールはブラーク様が、蜘蛛の糸はツェスさんが持つことにします。

 

サプリメント参照先:『天駆ける狗のディナーは■ミの鍋』

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◆主人公のステータス紹介◆

①[ブラーク・オ・リエンス]

レベル19/聖騎士

・技量点:2

・生命点:11+2(朝食)

・筋力点:5+1 (朝食)

・従者点:8

(保留経験点1)

・特技:【高潔な魂】【全力攻撃】【神の加護】【脳天かちわり】【戦場の風】【威風】

・従者:メイア(今回は宿でお留守番)

・故郷:ロング・ナリク

・持ち物=騎士の両手剣、エンベニーの片手剣、板金鎧、金貨178枚、銀珠、パラソル・ドール

 

②[ツェス・フォレストウィン]

聖騎士/レベル14

技量点:1

生命点:8+2(朝食)

筋力点:6+1(朝食)

従者点:9

(保留経験点1)

・特技:【高潔な魂】【全力防御】【神の加護】

・持ち物=聖騎士の槍(両手武器/斬撃)、板金鎧、金貨30枚、銀照弾、銀製のダガー、火熾しセット、蜘蛛の糸

ローグライクハーフ『ヴォンダンス~踊らぬ犬は冬に鳴く~』リプレイ(9)

このリプレイは、天狗ろむ様のシナリオ

『ヴォンダンス~踊らぬ犬は冬に鳴く~』

を遊んだ記録を小説仕立てにしたものです。

次なる目的地は『霊鎮めの儀』を確立した

偉大なるオードリー・ヴォンの墓地。

亡霊ハージェスが大人しく見守ってくれるとは思えませんが、

さてどんな冒険が待っているのでしょうか。

 

シナリオ参照元:

『ヴォンダンス~踊らぬ犬は冬に鳴く~』

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[冒険記録2-1]34:引き裂かれし恋人たち(昼)

 オードリー・ヴォンの墓所までは、迷わずたどり着くことが出来た。鳥人の騎士であり、今は執事であるツェスはランタンを掲げ、主人ブラーク・オ・リエンスのきっかり三歩後方を歩いている。

 暗い墓所洞窟の中を(ハージェスのものといい、洞窟型の墓を作るのはコボルトの文化なのであろうか?)進んで行くと、不意にブラークが身を屈めて地面から何かを広い上げた。

「ツェス、見てくれ」

 石、である。主人のつるりとした人間の手のひらでころりと転がされた石。言わんとすることは伝わった。

「最近割れたばかりのようだな」

「ハージェスは、間違いなく此処で何かを画策しているのだろうね。また土砂で埋められるかもしれない」

ブラークの手の中で、石の角が脆く砕けて赤土色の粉末に変じる。ツェスは、

「兆候があればすぐに撤退する。いいな?」

「我が執事頭の仰せの通りに」

全く仰せの通りにしない顔だなと思ったので、くちばしを鋭く鳴らして警告した。ブラークはニヤッと笑い、では行こうかと背を向けて歩き出す。

 さほど間を置かず、暗闇の中にせせらぎの音が聞こえるようになった。

「ツェス、私は不勉強だから知らないのだがね、コボルトの墓には川を流す慣わしなのかな」

「俺に聞かれても困る」

「そ──」

言いかけた口を閉じて、ブラークが振り返る。

「聞こえたか?」

 ツェスは頷く。せせらぎの音に混じって、人の声が確かに聞こえた。激情を感じさせる鋭い嘆きの声。あるいは、呪言であるかもしれない。曲がり角の向こうからか。

 出来れば避けたいが一本道である。足音を殺し、耳をそばだてて近寄っていく。すると、

「ああロミア! 君は何故ロミアなんだ!?」

「ジュリアン……」

 何ほどもない。恋人たちの睦言なのだった。ブラークが目を細めて小首を傾げ、問いかけるような眼差しをツェスに送る。邪魔するのは無粋じゃないか、と匂わせているのだ。数寄者らしい気配りと言うべきか、とんだお人好しと言うべきか。

 ツェスは首をきっぱりと横に振って、不賛成を示した。

 そもそも誰の目にも触れないからと他人の墓に押し入って乳繰り合う輩に、何の配慮をする必要があろう。ツェスは主人の横をすり抜けるとランタンを高く掲げ、わざと靴音も響かせて角を曲がる。

「おい、速やかに去れ」

 その先の光景を認識したツェスは、言葉を続けるより〈銀製のダガー〉を腰から抜き放つ方を選んだ。

「おおロミア、聖騎士が来た! 君を守らねば!」

「嗚呼、なんてことでしょうジュリアン! きっと亡霊の仲間が言いふらしたのよ!」

 目に飛び込んできたのは、信じ難い事に吸血鬼の恋人たちである。ふたりは部屋を横切る川によって隔てられていた。

「どうしたツェス」

 追い付いてきたブラークがのんびりと言い、ツェスのダガーと吸血鬼の恋人たちを見比べて、ふうん、と意味深長な反応をする。

「おお! 聖騎士がふたりも! ロミア!」

「逃げられないわジュリアン!」

「悪しき種族を誅するのに躊躇う理由があるか、ブラーク?」

 そこで聖騎士として善なる神の御意向を代弁すべき、すなわち吸血鬼の天敵となるが相応しい身分のブラーク・オ・リエンスは、大胆にもこう言った。

「まあ落ち着きたまえ。三人ともだ。どうどう!」

ツェスは全身の羽毛を逆立てる。この主人ときたら、またぞろ妙な事を。

「ご覧よツェス。可哀想に骨と皮になってしまっている」

「吸血鬼に可哀想も糞もあるか!」

「しかしウルール殿から、三村が吸血鬼に襲われてたなんて話は聞かなかっただろう。たまたま運悪くここを逢瀬の場に選んで、たまたま川が……川はたまたまか?」

「と、突然爆発があったのだ! 我らが間抜けなのではないっ!」

 急に天敵から話の矛先を向けられた吸血鬼ジュリアンは、精一杯の虚勢を張って聖騎士ブラークを睨みつけた。

 吸血鬼というものは、清らかな水の流れを渡ることができない。触るのも障る。

 ジュリアン曰く、ふたりが仲睦まじく愛を交わしていた最中、突如として亡霊の集団が洞窟墓地に出現。何のつもりか奥で爆破を仕掛けた。その衝撃で地下水でも噴出したらしく、部屋に流れ込んで来たのだとか。奔流に恐慌を来たしたふたりは、気づいたら川のあちらとこちらに分かたれていた。特にロミアは洞窟の奥にも下がれない立地に追い立てられてしまい、彼女が亡霊に襲われる事を危ぶんだジュリアンは飲まず食わずで寄り添うことを選んだのだと言う。進退極まったふたりは、砂漠の立ち木ほどかりかりに痩せ細っている。

「事情は分かった。さて吸血鬼ジュリアン、君に提案がある」

 警戒したジュリアンは、さっと爪を構えた。ブラークは両手を開いて害意のないことを示したが、しかしツェスが思うに、この男が本気になれば素手でも吸血鬼を殺す方法など百通りでも見つかるだろう。あまり安心材料になってはおるまい。

「セルウェー神の慈悲心には種族の隔てなど存在しない。聖騎士はそれが悪を成す努力で無い限り、困難に立ち向かう者の味方をしなくてはならない。そうだね、ツェス」

さてこの〈できごと〉では、吸血鬼の恋人たちを救うか、それとも仕留めるかという選択を迫られます。聖騎士としては、ツェスさんの言葉通り吸血鬼は撃ち滅ぼすべき敵でしょう。しかしブラーク様の仰る通りセルウェー教の最も大切な教えは「愛」でございます。プレイヤーは選べませんので、ここはダイスを通じてふたりの決断を汲み取ることといたします。奇数なら討伐、偶数なら救助。出目は……4! ここは主人の意向に沿うということですね。さすが忠義の男。

そして助ける場合は、さらにふたつの選択肢があります。生命点を分け与えるか、ロミア(女性の方)を背負って川を渡るか。前者は単純に痛いだけでなく、聖騎士の血ってあんまり美味しくないんじゃないかと危惧しましたので、川を渡る方を選びます。しかしロミオとジュリエットの性別が逆と言うのがなんともお洒落ですね!

 ツェスは返答の代わりに無言を貫いた。全身の羽毛は逆立ったままである。この主人が何をする気か悟ってしまったからだ。

「つまりねジュリアン、私は君たちを助けようと思う。しかし方法は限られる。川を塞き止める力はないし、聖騎士の血は吸血鬼には毒だろう。そこで、君たちが腹を括ってくれるならば、私が川を渡り彼女を背負ってきてこちらの岸に戻す。そうすれば洞窟からは出られるね?」

「ロミアを聖騎士に触れさせろと!?」

「落ち着きたまえと言っているだろう。このままでは彼女は私の鎧に触れただけで焼け焦げてしまうことくらい、分かっているとも。そこまで馬鹿では無い」

「馬鹿だろうが」

「ツェス、茶々を入れるんじゃない!」

 ブラークは剣帯を解き、板金鎧を外していく。渋々ツェスは手を貸した。この種の鎧は一人で脱ぎ着するには難儀なのである。

「さてジュリアン、どうかね」

「……」

「煮え切らない男だな。では、レディ! 選択権は貴女にある。聖別された金属は全て外した。これで川を渡る間くらいは、貴女を害さずに済むだろう。如何かな?」

「……お願いするわ」

「おおロミア! その男の口車に乗せられてはならないぞ!」

「ジュリアン、だったら助かる方法が何処にあると言うの? 私は信じますわ。世の聖騎士が、その謳い文句と同じように高潔であることを」

「よろしい、実に度胸のあるレディだ。私は賞賛するよ」

 ブラークは、髪を濡らさないよう簡単に結い上げると、ざぶざぶと川に足を踏み入れた。すぐに水位は長身のブラークの腰の辺りまで達する。ツェスは祈りながら見ていたが、幸いにもそれ以上には深くならない。

「レディ、私の背に乗って。しかし首に牙は立てずにおいてくれたまえ。君の命が保証できないからね」

「張りの良いお首を見せてそう仰るなど、罪深いお方ですこと。されど、わかりましたわ」

無事に川を渡り切れるか【幸運ロール】(目標値5)に挑戦です。これはブラーク様が川を渡れるか、ではなく、背中に乗ったロミアが理性を保てるか、即ち噛みつかないかという判定です。ブラーク様で技量点判定→出目3ですが技量点2を足してギリセーフ!

 女吸血鬼の熱っぽい吐息まで感じられる語調に、ツェスとジュリアンは別の意味で緊張を覚えた。ロミアを背負ったブラークが、慎重に川を渡ってくる。転んだら一大事だ。ロミアは潤んだ目でブラークの首筋を凝視していたが、こちらも何とか堪えている。やがて対岸に渡り切ると、ジュリアンとロミアはふらつきながらも、互いを支えるように抱き合う。

「おお聖騎士よ。不本意だが、ロミオを救った高潔さには感謝せねばなるまい!」

「いつかジュリアン共々、お礼を致しますわ。どうか今はお許しを」

 ブラークは胸の前に手をやって羽ばたき──セルウェー教の挨拶の仕草をしようとして、思いとどまったようだった。祝福は、吸血鬼に対しては呪いに反転しかねない。そこで貴族らしく恭しいお辞儀をして、

「頼もしく待っていよう。さて外は昼だからね、気を付けて出て行くことだ」

 吸血鬼の恋人たちも、くたくたとしたお辞儀を返した。ツェスは何事も起こらず良かったと安堵が半分、向こう見ず過ぎる主人に対する怒りが半分の心持ちである。そのささくれ立った精神を沈めるべく、猛然と主人の鎧の着付けに取り掛かった。

ロミアを救うため川に突入したため、ブラーク様は【ずぶぬれ】状態になりました! これは『ヴォンダンス~踊らぬ犬は冬に鳴く~』特有の状態異常です。いやあ、早くも水も滴る良い男の顕現に成功しちゃいましたね(「成功」でいいのか問題)。

ちなみに吸血鬼の恋人たち、次の冒険で【アンデッド】が出た場合に助太刀してくださるそうです。心強い!

 

ローグライクハーフ『ヴォンダンス~踊らぬ犬は冬に鳴く~』リプレイ(7)

このリプレイは、

天狗ろむ様のシナリオ

『ヴォンダンス~踊らぬ犬は冬に鳴く~』

を遊んだ記録を小説仕立てにしたものです。

亡霊ハージェスを退けたブラークとツェス。

〈天駆ける狗〉亭に帰還したふたりに、看板娘ディジベラは興味津々です。

 

シナリオ参照元:

『ヴォンダンス~踊らぬ犬は冬に鳴く~』

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[1回目の冒険のエピローグ]

「あはハ、それデ、ディジーはこっチなのネ!」

「パパったら、それから何にもやらせてくれないんだもの」

 大イノシシのステーキを焼きながらダヴァランは溜息を吐いて、

「ディジーはもう大人しくしていなさい。これ以上、誰かを七色に光らせてはいけない」

「はぁい」

 ブラークとツェスが儀式用の仮面を手にして戻って来た時、彼らが新たに連れてきたコボルト型のドールを見るなりウルール・ヴォンは失神してしまった。無理もない。祖母に瓜二つなドールだったのである。後に聞いた話では、ハージェスを封印した墓所にそのような物が収められていること自体、ヴォンの一家にも伝わっていなかったのだそうだ。

 ディジベラは気を失ったウルールの為に特製の薬を処方した。たちまちウルールは目覚めたが、副作用で何故か体が七色に光るという怪現象を引き起こし、〈天駆ける狗〉亭は一時騒然としたものである。

「それにしてモ、ちゃんト仕事できる聖騎士だったのネ」

 出来るオークのドミニアは、やや風向きが悪いと見て話題を変えた。食堂の対角線上、隅に隔離されたブラークは、エールを片手に山盛りになった川魚の唐揚げを美味しそうに攻略している。平和そのものの姿を見ているとコボルトの三村を壊滅させた大物亡霊とやり合って来た直後とはとても信じられないし、それ以上にオークのドミニアの胃袋にとって刺激的だった。

「そうなの! メロウさんの歌の通り」

 顔を輝かせたディジベラに、

「取り逃がしたらしいがな」

と再びダヴァランは釘を刺しながら、ドミニアの前にステーキを置いた。

「一昨日獲れた大イノシシ肉に、新しく仕入れたハーブを添えてある。君の舌に合うとは思うが、忌憚のない意見を聞かせて欲しいね」

「わーイ、おーいーしーそーーーウ! 絶対に美味しイに決まってるネ! ステーキは飲み物だヨ」

「また怖いことを言うなあ」

 いそいそと食べ始めるドミニアの向かい側では、ディジベラが頬を膨らませている。

 父はカウンターに戻って行き、ドミニアはステーキに夢中。手持ち無沙汰になっていた所、ツェスとウルールが連れ立って食堂に入って来た。ブラークが手を上げると、ふたりはその卓に腰を落ち着けて、何やらブラークと相談をし始める。ブラークは相槌を打ちながら、驚異的な器用さで唐揚げを口に放り込んでいた。

 ディジベラは父に捕まらない速度で席を立つと、四人がけのその卓に滑り込む。

「おや、レディ」

「次の作戦をお話してるんですか?」

「ご一緒は出来ないがね。お父上に怒られるから」

「メロウさんに聞かせてあげたいと思って」

「なるほど、それでは話さざるを得ない。次の目的地はウルール殿のお祖母様の墓所だ」

 ブラークが述べるには、ふたりが仮面を取りに行っている間にウルールが『ヴォンの書』の解読を進めていたが、それによるとハージェスを封じる『魂鎮めの儀』に必要な品は仮面だけでは無いのだという。それがオードリー・ヴォンの墓所にあるのだそうだ。

「用心としては正しい。レディ・ヴォンもいつかハージェスの封が破られた時、一気に奪取されぬようにと考えられたのだろう」

「オードリー様の墓所なら、確か」

 ディジベラとブラークの顔の間からダヴァランの逞しい腕がぬっと伸びて、エールのジョッキを机にどんと置いた。

「かーおーがーちーかーいッ!」

「ダヴァラン殿、よくお代わりのタイミングを察してくれたね。出来るマスターは違うんだなあ。はっはっは」

「……ディジベラ、ツェス殿とウルール殿に飲み物くらい出しなさい」

「はーーーい」

 肩を竦めて駆けていったディジベラに代わり、ダヴァランが卓につく。

「うむ、私としてはご令嬢が横にいてくださる方が嬉しいのだがね。睨まないでくれたまえ、ただの本音だ。それにウルール殿が怖がっているだろう。君はただでさえ強面なのだから。さて作戦会議をしようか?」

「坊ちゃん、いい加減に口を閉じることを覚えろ」

「作戦会議中に?」

 ツェスが唐揚げの皿とエールのジョッキを持ち上げると同時に、机ごとブラークが吹っ飛んでいく。今のは流石に我が主人の方が悪いなと思ったので、ツェスは傍観することにした。

 

[一回目の冒険、完]

獲得アイテム:大ぶりな水晶(金貨50枚で売却)、蜘蛛の糸、パラソル・ドール

ということで、ブラーク&ツェス主従の初めての冒険でした! お楽しみいただけましたでしょうか。この後も引き続き二回目にトライしてまいります。亡霊ハージェスがあっさり引き下がることもないでしょう。より難しい冒険が待ち受けて良そうですが、主従も怖気づいたりは致しません。オードリー様の墓所を目指すふたりの無事を、セルウェー様にお祈りいただけましたら幸いです。

 

 

 

ローグライクハーフ『ヴォンダンス~踊らぬ犬は冬に鳴く~』リプレイ(6)

このリプレイは、

天狗ろむ様のシナリオ

『ヴォンダンス~踊らぬ犬は冬に鳴く~』

を遊んだ記録を小説仕立てにしたものです。

亡霊ハージェスと邂逅したブラークとツェス。

氷と白刃の舞い踊る戦場を制するのは、果たしてどちらか。

主従の絆で勝利を掴め!

 

シナリオ参照元:

『ヴォンダンス~踊らぬ犬は冬に鳴く~』

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[冒険記録6]最終イベント:亡霊・ハージェス(夜)/後

1ラウンド目。再びハージェスの【氷雪】が襲い掛かります。攻撃回数1回なので、対象は今後「前のラウンドで攻撃に成功した方。該当しない場合はブラーク→ツェスの順で回す」ということにします。ということで対象:ブラーク様。目標値6に対し、出目はまたも6! 大成功です。豊満な部分を見ているだけではないということですね。

主人公側の攻撃に移ります。【戦場の風】は遠距離攻撃なのでブラーク様には攻撃手段がありません。しかし諦めるなかれ。ツェスさんに【銀製のダガー】を持たせたのがここで輝きます。対ハージェスには+1のボーナスまでつきますので、さあ、お願いしますツェスさん! ハージェスのレベル6に対し、出目は……5! 成功!

 血煙は上空で結集して、再び半獣人の妖婦となる。その顔には先程までのしおらしさなど影も形もない。只今の牙を剥き出した獣の相こそ本性なのだろう。ハージェスは、氷柱群の何処かにいるブラークを睨んでいた。

「レディ、誤解があるようなので申し上げておくが、私はご婦人だけでなく、この世界にいるあらゆる種族を好いている。それと同じくらい悪に対しては平等だよ。貴女が悪を成すならば、例えいたいけな幼子の姿を取ったとしても私は首を斬る用意がある。それが私という聖騎士だ。誑かしたいなら、覚えておいていただきたい」

 ハージェスからの返答は、更なる氷柱の追加であった。ガリガリガリガリと音を立てて床と言わず壁や天井からも、果ては空間からも氷柱が顕現する。圧倒的な物量でブラークを追い詰めて仕留めるつもりだろう。如何に聖騎士の鎧といえど、大質量の氷を高速でぶつけられて無事な訳がない。

 しかしツェスには分かっていた。これはブラーク流の陽動である。ハージェスが所構わず氷柱を射出し、ブラークがその何本かを叩き割る音が響く中、ツェスは音もなく駆け出した。素早く、隠密に。

「鬱陶しい騎士め! とっとと凍りついてしまえ!」

ハージェスはブラークしか見ていない。更なる強力な魔術を撃ち出さんと手で印を切っている。ツェスは氷を駆け上がって飛びかかり、その無防備な背中に銀のダガーを根元まで埋める。

 悲鳴とともに血風と化したハージェスは、再び空中で結集すると怒りに任せて次々とツェスに向けて氷柱を撃ち込んできた。

2ラウンド目。【氷雪】のターゲットはツェスに。防御ロールは5で成功です。技量点に板金鎧のボーナスまでありますから、心強いですね。攻撃に回って、ツェスさんここは残念ながら失敗。防御に専念という情勢でしょうか。(懺悔ですが、防御の判定は【対魔法ロール】が正しいです。戦闘で興奮しすぎたあまり、プレイヤーが間違えてますね。【神の加護】を無意識に使っていたということで、ご容赦ください)

 (……見えている)

 猛禽の優れた視覚はツェスの武器。風に対する知覚も、空を知るバランス感覚も、全てが人間には持ち得ない武器である。氷柱が生み出す空気の流れの一筋一筋が軌道を知らせ、捕食者の眼は獲物を見逃さない。後は駆け抜けるだけだ。 今は相手を好きなだけ調子に乗らせておけばいい。

 ハージェスが放った氷柱郡が床に激突して崩壊し、次の瞬間には醜悪な棘と化す。そこにツェスの姿は無く、ハージェスは高笑いした。

3ラウンド目。【氷雪】のターゲットはブラークに。防御ロールは5で無難に成功です。主従、どうやら【氷雪】を見切っているのか……?

そして3ラウンド目以降、主人公が部屋に落ちている封印の仮面に気づきます。手に取れるかを【攻撃ロール】の代わりに【器用ロール】(目標値4)で判定します。攻撃手段の無いブラーク様に挑戦していただき、何とここも出目6で突破! 今度はツェスさんに注意を集めてブラーク様が仮面を奪取したのでしょうか。本当に息の合った主従です。

仮面の力により、ハージェスのレベルは一気に4に低下、さらに通常の武器が効くようになります。攻めるべし! ツェスの攻撃ロール、出目2ですが成功!

「飛べない鳥風情が!」

「ふうむ。どうも貴女は独創性に欠けるのだね、レディ」

 のんびりとしたブラークの声が、ハージェスの背後から聞こえる。

 氷柱に腰掛けた聖騎士をハージェスが憤怒の形相で振り返ったところで、ブラークの座っていた氷柱が、唐突に砕けた。

 体勢を崩して転がり落ちるブラークに、今度は床面の氷が盛り上がって襲いかかる。氷はまるで獣の大顎のように、かっと左右に開いてブラークを飲み込んだ。 再生したハージェスは氷の獣の鼻面に降り立つ。その内側に封じられている聖騎士の醜態を嗤ってやらねばならぬと、にやけた顔で。

 果たしてハージェスは覗き込んで──金切り声を上げた。

 氷が砕ける。

「やあ、やはりこの仮面が正解か。貴女が作った模倣品とは大違いだ」

 ブラークは仮面を被っていた。東の国の様式で作られた、灰色のコボルト面。かなり野性的な面相である。

「ヴォン!」

と、ブラークが犬の鳴き真似をするとハージェスは頭を掻きむしって苦しみ始めた。

「その仮面を離せ! 離せ離せぇっ! ああっ、離してくださいませ、聖騎士様あああ!」

 ブラークに掴みかからんと腕を伸ばしたハージェスの顔は、脂汗と苦しみで歪んでいる。その貴婦人のものとは到底思えぬ節くれだった指はブラークの顔の手前、仮面の手前で、透明な壁に阻まれているかのように、わなないていた。

「それは随分と虫の良い話ではないかな、レディ。貴女は私を殺そうとし、ツェスに悪口を言い──」

 ツェスの銀刃が横合いから飛ぶ。その銀の光は反応する暇も与えず首を搔き切り、三度ハージェスに血風と化さねばならぬ屈辱を味わわせたのだった。

「ほらね、私の副官は大変有能なんだ」

4ラウンド目。【氷雪】のターゲットはツェスに。ここも成功して、ハージェスに付け入る隙を与えません。続く攻撃ロール、主従共に成功し、ハージェスの生命点が半分以下に。勝利です。

 周囲の氷柱から、ぽたぽたと水が落ちる。溶けかかっていた。ハージェスが弱っている証拠なのだろう。

 それでも血風は苦しみ悶えるように結集し、ブラークとツェスの前に立つ。両手を掲げたハージェスの周囲に、吹雪のような凍てつく風が渦巻いた。美しき死霊秘術師は血走った目でふたりを品定めすると、ツェスに向けて凍てつく風を吹きつけた。

「氷柱など妾の秘術のひとつでしかないわ! 最早加減はせぬ。苦しみを味わうがよい!」

 ところが高笑いするハージェスの額から、どす、と音を立てて銀の刃が飛び出す。後頭部からツェスが一息に突き立てたものである。

「な、な……」

 ハージェスは驚きに目を見開いて、己の額をまさぐる。そして疑った。【氷雪】の呪文を唱えたと思ったのも、吹雪を呼び出したと思ったのも、すべてあの忌まわしい仮面が見せた幻覚だったのではないかと――。

「俺に対しては悪口どころでは無かっただろうが」

「うん」

 ブラークが剣を一薙ぎすると、ハージェスの首が体から転がり落ちた。

「レディ、今の貴女は悪い夢に囚われているのだよ」

 亡霊は今度は血煙にならず、溶け込むように氷に覆われた床に沈みこんでいく。そしてぱっと、全ての氷が一瞬で消え去った。まるで今までの戦闘は夢だったと言うように。しかし砂塵になるほど細かく砕け散ってしまった石畳を見れば、夢ではない。

「逃げたね」

「お前が遊ばなければ良かったのだろうが」

「私はいつも真剣だよ」

「胸の谷間を見ていた」

「失敬な! ブランカには言わないように!」

 ツェスはやれやれと頭を振った。人間の趣味は度し難い。あんな羽毛も生えない、剥かれた鶏肉のような肌の何が嬉しいのか。胸が膨らんで何が美しいのか──そんなもの、飛ぶのに邪魔なだけである。

ハージェス戦の宝物ロール! ここで出目5+ボーナス2点で魔法の宝物表への挑戦権を得ました。ご縁をいただきました魔法の宝物は〈パラソル・ドール〉。こちらはコボルト型のドール(自律式の魔法の人形)で、何と、依頼人ウルールの祖母であり、かの『ヴォンの書』を記したオードリー・ヴォンの魂が宿っているというのです!

「あー、さてツェス。それはそうと、我等は何処から出ようね」

 むう、とツェスは唸った。見たところ墓所の間から先に続く道はない。しかし引き返したところで、埋まっている。天井を調べれば穴くらい開いているかもしれないが、

(飛べないのだ)

と、ツェスは嘴をぎりぎりと噛み締めた。

 部屋の片隅から「カチン」と小さく硬質な音が響いて、ブラークとツェスは顔を見合わせる。

「ツェス? 聞こえたか?」

「チャマイの歯車の音のようだ

カチカチカチカチと歯車の噛み合う音はまだ続いている。何か、墓所に隠された機構があるのかもしれない。

「探そう。脱出の手助けに……」

 カチン! と合いの手めいた歯切れの良い音が鳴った。主従は再び顔を見合わせる。

 墓所の間の最奥に安置された棺──これがハージェスの封印だろうか──の横に置かれた、一回り小さな棺の蓋が滑らかに開いて、白いコボルトがむっくりと起き上がった。

「導きが必要でしたら、お役に立ちましょう。私はオードリー・ヴォンの魂を宿した〈ドール〉でございます」

ローグライクハーフ『ヴォンダンス~踊らぬ犬は冬に鳴く~』リプレイ(5)

このリプレイは、

天狗ろむ様のシナリオ

『ヴォンダンス~踊らぬ犬は冬に鳴く~』

を遊んだ記録を小説仕立てにしたものです。

亡霊ハージェスを再封印するべく、

儀式用の仮面を求めて墓所を探索するブラークとツェス。

呪いを物理的に粉砕したふたりですが

土砂崩れによって退路を断たれてしまいました。

前進を選んだふたりの行く手には、早くも――。

 

シナリオ参照元:

『ヴォンダンス~踊らぬ犬は冬に鳴く~』

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[冒険記録6]最終イベント:亡霊・ハージェス(夜)/前

〈できごと〉のd66で出目13が出ました。ということで急転直下、最終イベントに突入です。そういえば今回の最大の敵である亡霊・ハージェスのビジュアルについては特に(この段階では)描写が無いような……? と発言しましたら、シナリオ作者の天狗ろむ様よりご回答をいただきました。 

ということで、シナリオ内においてハージェス様のビジュアルは自由! 長きにわたりこの地を脅かしている死霊秘術師ハージェス。ヴィランらしい貫禄ある男性、いやいや美青年、骸骨顔の人外、など色々と考えてみましたが、しかしブラーク様の前に立ちはだかるセクシー美女を見てみたいなというプレイヤーの欲により、決めました。拙リプレイ時空におけるハージェス様は、出るべきところは出、くびれるところはくびれた、色香漂う高笑い系美女であります。そして「犬」に対抗するなら「猫」であろう、ということで「コボルト」に対抗して「虎」要素を注入しておきます(ケモ好きの私欲)。2回目以降の展開は見ていないので、当たるかどうかは博打でございます。

 壁画の終点には白毛のコボルトが、並んだコボルト達と相対する向きで描かれている。踊りを教えているようにも見える。たおやかな仕草で手足を上げた白毛のコボルトの顔には、仮面がある。黒い、犬づらの面。

「これが真なる儀式の仮面かな」

ブラークは片手片足を上げたまま、くるりと振り向く。

「だろう。さしずめ、このコボルトがオードリーとやらか」

 ツェスが応えた時、またも洞窟が鳴動する。みしみしと壁が鳴り、天井から細かい石混じりの砂が落ちてきた。そして通路の先の何処かで重々しい扉、恐らくは石造りの扉が開いた音が響き渡る。

「ふ、ふ。余程気に食わないと見えるね。早く来いとのご招待だ」

「油断するな、ブラーク」

「分かっている」

 しばらく先へ進むと、先程開かれたと思しき石造りの扉が現れた。その奥は暗い。渦巻くような闇に沈んでいる。墓所と見て間違いはなさそうだ。亡霊に灯明かりは無用なのだから。

 ブラークが剣の鞘を払い、ツェスの持つランタンの光が白刃を威圧的に煌めかせた。墓所に踏み込むと、ツェスはその広さに驚かされる。ウォー・ドレイクが飛び回れそうな奥行と高さを持つその空間は、聖堂の内陣とも似た厳かな気配を無言の内に湛えている。儀式の場でもあったのだろう。その半ばに、ぼんやりと発光する人影がひとつ。

「お初にお目にかかる。ハージェス殿とお見受けしたが、間違いないだろうか、レディ」

「いかにも。妾がハージェスでございます」

 かの悪逆非道なる亡霊ハージェスは麗しい女性だった。大きく胸の開いた扇情的なドレスでめかしこみ、これ見よがしに流れるような腰と尻のラインを強調している。

 頭頂部に金と黒の獣耳が見え、やはり金と黒の縞模様のしなやかな尾が床を軽やかに叩いていた。髪も金、そこに縦横に交差した黒い模様が入る。獣人に近いが、正確な種族は判別不明。滅んだ古種かもしれない。色だけならば、東の国の絵にしばしば描かれる〈虎〉に似ている。

 ツェスは意外の念に打たれたが、確かに誰からも爺とは説明されていない。となると問題は……。ツェスは目を細めて、ブラークの背中を見遣った。この主人ときたら、とんと女性に弱いのである。

「斯様に暗い地の底へ、わざわざ良くお越しくださいました。今しばしお待ちいただけましたら、ご挨拶に参りましたのにねえ。しかし妾を封じるために、異教の騎士などを雇うとは。……おお怖い、何と見境の無い犬どもでありますこと! 妾はコボルト共に痛めつけられ、こんなちっぽけな姿になってしまったのでございますのに、それでもあの犬どもの執念深いことに限りはございませんのねえ」

 本当に怖がっているかのように、ハージェスはしなを作って自身をかき抱く。そのポーズも計算の内だろう。強調された豊満な胸と白磁の肌を見せつけ、ハージェスは媚びた眼差しをブラークに送った。小首を傾げたブラークが、ハージェスの磨き抜かれた玉の如き肢体に目を釘付けにしていることは疑いの余地もなく、ツェスは後ろから蹴りを入れるべきか迷ったが、代わりに言葉を差し挟むことにした。

「ブラーク。今から化けの皮を剥がしたらシワシワの婆になるぞ。爺かもしれん」

「ツェス! レディに何てことを言うんだ! 私はだね……」

 よよ、とハージェスは袂で涙を拭う。ツェスの目から見れば、かなりわざとらしい。

「……レディ、私としては話し合いで解決できることを望んでいるのだが、さて貴女の望みはなんであろうか?」

「優しい騎士様でありますこと! 妾の、妾の望みはただ」

ハージェスはそこでふつっと言葉を止めた。

「言ってご覧なさい、レディ」

 ブラークに促されるとツェスの方を横目で見て、

「あの恐ろしい鳥の前では言えませぬ」

 などと白々しく言う。そしてブラークを手招きする。いよいよ危ない。 ツェスは主人のマントを引っ掴み、

「いい加減にしろ」

「当たりが強過ぎるのでは?」

「阿呆」

「阿呆とは何だ」

むっとした顔で、ブラークはユニコーンが跳ね躍るご自慢のマントをツェスの指先から引っぺがす。

「いつから君はそこまで無情になってしまったのだ? それはレディとて怖がるであろう。もう少し下がって待っているように。具体的に言うなら大股に五歩以上は下がれ。良いね、ツェス」

 そしてブラークはハージェスの方に颯爽と歩み寄る。かつかつと調子よくサバトン(鎧の靴の部分)を鳴らし、凡そナリクの老若男女の心を掴む人懐こい笑顔をハージェスにだけ向けて。その距離が手を伸ばせば届くほどまで接近したところで、ブラークは止まった。

「レディ、これでよろしいかな?」

「ああ騎士様、騎士様。妾の望みはただ――」

ここで拙リプレイの特殊解釈として「ブラーク様はレディに先手を譲る」こととします。つまり〈亡霊・ハージェス〉の先攻で戦闘を開始します。それは余裕だから? 否! かの死霊秘術師にして大亡霊にして美しき虎のレディのステータスは、レベル6、生命点10、攻撃回数1、加えて無限の魔力により毎ターン魔術が飛んでくるおまけ付きでございます。 

従者の有無によって使う魔術が違いますが、詳細は省きます。ここは皆様、是非ご自身で冒険して大ボリュームのギミックをお楽しみくださいね。今回は【氷雪】の魔法が飛んできます。【対魔法ロール】(目標値=敵レベル)で判定し、失敗すると副能力値が減少。そうです、この戦闘は副能力値切れでも敗北してしまうため、軽々と【神の祝福】の連発はできません。しかし連続で受けてしまうと更なるバッドステータスが……。幸いにも対象は1名ですので、ここで上手くコントロールできることを祈ります。では早速0ラウンド。対象はブラークとして技量点で【対魔法ロール】。結果は、おおっと「6」! 文句なしの大成功!

対するブラークの0ラウンドの攻撃ですが、輪をかけて恐ろしいことに〈亡霊・ハージェス〉には「魔法のかけられた武器」か、名前に銀に関する単語を含んだ「銀製の武器」しか通用しません。しかし、そこは聖騎士。アンデッド討伐のプロとして隠し玉【戦場の風】を持っております。特技自体は聖騎士の代名詞のようなものですが、何とこの攻撃は「魔法の武器」と同様に扱われるんですね。しかも2ダメージ。ということでレッツ、【戦場の風】! 出目は4、こちらも成功です!

 ドレスの縁を摘み、あたかも王に拝謁した貴婦人の如く。へりくだってお辞儀をしたハージェスがふっと顔を上げて貪婪に金の目を輝かせるのと同時に、ブラークの足元と四方から天井にも届かんばかりの氷の牙が突き上がる。

「ブラーク!」

 主人の言いつけ通りに後退していたツェスは全くの無事であった。

「ほ、ほ、ほ。愚かしい。どれだけの時が流れても定命の者の愚かさは変わらぬか。耐え難いことよ! 妾の望みはただ、新たなる依代となるお前のか、ら……!?」

 ハージェスの体が縦一文字にぱっくりと裂ける。驚愕の顔のままゆっくり左右に分かれたハージェスは、固体であることを辞めて血煙となった。

「ツェス、見えたな?」

 氷の林の何処かから主人の声がする。一拍遅れて、氷柱の倒れる音が響き渡った。聖騎士の奇跡たる剣技のひとつ【戦場の風】。それは振り抜いた剣から発する衝撃波によってあらゆるモノを引き裂く一撃。例えそれが魔術によって屹立した氷であれ、物理法則を無くした亡霊にであれ、届くのだ。

「応とも。ツェス・フォレストウィン、主命によって参上つかまつる」

ローグライクハーフ『ヴォンダンス~踊らぬ犬は冬に鳴く~』リプレイ(4)

このリプレイは、

天狗ろむ様のシナリオ

『ヴォンダンス~踊らぬ犬は冬に鳴く~』

を遊んだ記録を小説仕立てにしたものです。

亡霊ハージェスを再封印するには儀式用の仮面が必要と聞き、

件のハージェスの墓所を目指すブラーク&ツェス主従。

大敵を退け、罠を掻い潜り……。

さて、次はどんな災いが待ち受けるのでしょう。

 

シナリオ参照元:

『ヴォンダンス~踊らぬ犬は冬に鳴く~』

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[冒険記録4]中間イベント:偽物の仮面(昼)

 通路が膨らんで、やや手狭だが広間のようになった区画に出る。かつてはここで儀式が行われたのかもしれないし、あるいは道がまだ奥にも続いているから、本格的な儀式の前の待機所などにも使われたのかもしれない。

 壁の両側には幾つも仮面がかかっていた。色とりどりの、コボルトの長い鼻面に合わせた作りである。これが件の儀式用の仮面だろうか。

「ヤーパンの様式ではないんだな」

 ブラークが首を傾げた。亡霊ハージェスを封じた『霊鎮めの儀』は東の国ヤーパン仕込みだという。最近のブラークは東の国の美術品に心を掴まれて、絹の輸入の「ついで」に片っ端から蒐集しており、そのため張り子や木製の面をツェスも見た事があった。その何れとも、様式が違う。

「代替わりして変化したということかもしれないな、この面も。効きが悪くなっていないといいが」

 壁からブラークがひとつ取り外そうとした時、仮面が一斉にガタガタ震えながら笑い始めた。

「イヒヒヒヒヒ!」

「ケケケケケエ!」

「ノロウノロウ!」

次第にその嘲笑は、何を読み取ったのだろうかブラークを煽る言葉に変わっていく。

「アー、森番ノ息子、ゴキゲンヨウッ!」

「ナニヲ努力シテモ爵位ハ上ガラナイヨ」

「ドレダケ女ヲ泣カセタノカナ~?」

「末息子クントハ仲直リデキマシタカw」

「「「「ウヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!」」」」

この性悪仮面、呪いを振りまく凶悪な品です。呪いに対抗できるか【対魔法ロール】(目標値5)で判定をしなくてはなりませんが、ご安心ください。何と聖騎士は【対魔法ロール】を【筋力ロール】にすり替えられるスーパーマッスルなセルウェー様パワーを備えております。その名も【神の加護】。ふたりとも【神の加護】を使用し、ふたりとも出目3で成功。仲良しですね。仲良しマッスルパワーで呪いを突破です。ナイスバルク!

 ブラークは無言で拳を振り上げると、仮面をまるで脆い砂糖細工かのようにぐしゃっと砕き潰した。

「ウソッ?」

「ランボウッ」

「ドンビキ!」

 ブラークは哀れみの籠った眼差しで部屋中の壁に仮面を見渡した。

「諸君、ご存知無いようだから教えて差し上げよう。私にとって諸君の言説は聞き飽きた内容ばかりでね、呪いになるには随分と退屈だよ。もう少し気の利いた悪口を考えたまえ。さてツェス、聖騎士は呪いのアイテムなど見逃す筋合いは無いと思うが、どうだい?」

「同感だ」

「だってさ!」

と言いざま、ブラークは回転蹴りで別の仮面を粉々にした。

 わはははは、と高笑しながら呪いの仮面を破壊しまくる主人と、怯えて命乞いをする呪いの仮面。何だか頭がおかしくなりそうな絵面に、ツェスはむしろ懐かしさを覚えた。

 聖騎士時代、ドラッツェンとの戦争が収まっている時期には、乱れた人心と悪意ある流入によってナリク国内で発見された呪いのアイテムに対処したこともままあったのである。何れも一筋縄では終わらなかった。ブラークが強い精神力を備えた隊長だったから良かったものを、生っ白い根性なしの貴族が率いる部隊であれば全滅していただろう。上層部としては、ブラーク隊のような跳ねっ返り騎士の集合体など全滅して欲しかったのかもしれないが、生憎と元気に生きている。

「デ、オジサンハ見テルダケッスカw」

 真横にかかっていた仮面が要らんことを言ったので、ツェスは肘鉄で鼻面をぐしゃりと陥没させてやった。

 

[冒険記録5]41:土砂崩れ(夜)

夜になりました。緊張感が増しますね、というところでトラップです。対象は1d3人→出目は6ですが、今回はふたりしかいませんので、ふたり仲良く判定します。【器用ロール】(目標値4)で判定。ちなみに【器用】はマッスルでは誤魔化せません。技量点で振って、ふたりとも成功です!

「アー、ヤメテヤメテ、モウノロワナイデス!」

「ていっ!」

 最後の呪いの仮面の懇願をブラークが聞く耳持たずに叩き壊すと、それが何かの引き金であったのか、洞窟がゴゴゴと……地鳴りを立てて鳴動し始めた。たちまち天井に亀裂が入り、

「いかん! 走れツェス、こっちだ、迷うな!」

 ブラークは仮面の間の奥に向かって駆け出す。てっきり逆へ動くものと思っていたツェスも、慌てて追う。

「おい、ブラーク戻っ……」

 ズシャーーーッ! という凄まじい音が背後で鳴り響き、土砂が流れ込んで仮面の間がみるみる埋まっていく。もう戻れない。こちら側へ避けたことが正解だったのか。答え合わせは、先に進まなければ分からない。

 だがツェスは、ブラークに最後まで着いていくつもりだ。

 しばらく駆けたが、洞窟の崩落は追ってこない。一応は命拾いしたようだ。 先を行くブラークもそう思ったのだろう。足を止めて、息を整える。

「ツェス。まさか走って限界なんて言わないだろうね?」

「寝てからほざけ。俺は書類仕事が嫌になる度に窓から逃げるお前を、全速力で追いかけているんだぞ」

「つまり私のお陰」

 ごちん、という拳の音が洞窟に反響した。このお調子者は、調子に乗るのに限度というものが無い。何処かで止めるのが己の役割だとツェスは任じていた。騎士の位を極めた男に拳骨を落とせるのはツェスだけであり、故に先程の〈天駆ける狗〉亭での一幕を思い出せば腸が煮えくり返る思いもある。遍歴時代の友人とはいえ、今は立場が違う。軽々に小突き回されては困るのだ。

「ツェス、痛いのだが」

「で?」

 ブラークはツェスの気持ちも知らずとぶうぶう不満を述べ始める。ツェスは無視して洞窟の内部を観察することとした。

 やはり、人の手が入っている。しかも川沿いの道より丁寧に壁が滑らかに整えられていた。墓所へ続く道かもしれない。

 ブラークの背後には何か絵のようなものも見える。ランタンを掲げて照らすと、東の国のキモノに似た揃いの服を着たコボルトたちが、一列に並んで手足を奇妙な形に動かしている様子が光の中に浮かび上がった。

「これがヴォンの儀式……なのかな? どう見るツェス。私には踊っているように思えるが」

「ああ。しかも何だこれは、輪になっているのか」

 ブラークが片手片足をひょいと上げて、壁画の真似をする。

「こうだね」

ひょいひょいひょいと動かしたところで、洞窟の奥から吹雪の予兆かと思えるほど冷たい風が吹きつけた。

「はは、あるじ殿には不快らしい」

「笑っている場合か。亡霊の本体がいるのなら──」

「聖騎士に敵前逃亡という選択肢は無い」

「お前」

「そもそも逃げ道が無いんだぞツェス」

「まあ、それはそうだが」

「話は決まったな。行こう、亡霊殿の寝所にお邪魔する」

 ブラークは壁画を手本に、手足をひょいひょい動かしながら進んでいく。行く先から殺気にも似た苛立ちを感じて、ツェスは鳥肌を立てた。強烈である。聖騎士として相対した強敵たちのいずれにも勝るとも劣らじの存在感。主人はそれが分からぬほど鈍感では無いはずだが、さてその余裕の顔ではどうにも危ういのではないか。ツェスはエンベニーの村で買い求めた銀製のダガーを、きつく握り締めた。

ローグライクハーフ『ヴォンダンス~踊らぬ犬は冬に鳴く~』リプレイ(3)

このリプレイは、

天狗ろむ様のシナリオ

『ヴォンダンス~踊らぬ犬は冬に鳴く~』

を遊んだ記録を小説仕立てにしたものです。

亡霊ハージェスを再封印するには儀式用の仮面が必要と聞き、

件のハージェスの墓所を目指すブラーク&ツェス主従。

主神セルウェー様からの思わぬ祝福を得たふたり。

勇躍、先に進んでいきます。

 

シナリオ参照元:

『ヴォンダンス~踊らぬ犬は冬に鳴く~』

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[冒険記録2]64:入道蜘蛛(昼)

申しそびれておりましたが、『ヴォンダンス~踊らぬ犬は冬に鳴く~』では時間帯の概念が存在します。1回目の冒険は中間イベントまでが【昼】、それ以降が【夜】となります。夜の方が絶対にヤバい気がするなあ……。

 祈祷を終え、立ち上がろうとしたツェスをブラークが制する。

「しっ、聞け」

 確かに微かな足音が聞こえる。かしゃり、かしゃり……。ツェスが慎重にランタンを動かして探ると、見えた。醜悪なクリーチャーが。背に人面を貼り付けたような風体の巨大な蜘蛛が、天井を這っている。こちらに気づかれたことを察して、逃げるのではなく突進してきた。あれに組み付かれては危ない。長身のツェスやブラークでも抱え込まれてしまいそうだ。

 天井を走る蜘蛛の、その背の人面の口が、唾液の糸を引きながら、にちゃりと開く。

入道蜘蛛はレベル5、生命点7、攻撃数2です。夜だと生命点が増える相手だったので、早速ヤバさを実感。0ラウンドにクモの糸を噴出してきます。【器用ロール】(目標値3)に失敗すると、戦闘が終わるまで武器を取り上げられてしまうという嫌な効果。過去のトラウマが蘇りますので、ここは大技をぶっ放す方向で行きます。ブラーク様の【脳天かちわり】で先制攻撃! 出目5で成功、かつ遠距離攻撃=クモ糸噴出を封じることにも成功です!

 信じ難い速さで剣を抜き打って、ブラークが跳んだ。開きかけた口に剣を深々と突き立てられ、蜘蛛は藻掻いて天井から落下する。ブラークは蜘蛛の脚に掴まれる前にさっと退いた。

(【脳天かちわり】──!)

 ツェスは惚れ惚れとして、主人の剣の冴えを味わう。舶来物のこの一撃と、怖いもの知らずな気性によって、ブラークという騎士は幾体ものウォー・ドレイクを地にひれ伏させて来たのだ。

1ラウンド。ブラーク様は【脳天かちわり】の余波で攻撃不可。ツェスさんは【銀製のダガー】で攻撃を仕掛けます。しかし出目2で残念ながら失敗。防御の方はふたりに一撃ずつ割り振り、ふたりとも成功。

「ツェス!」

 名を呼ばれて、我に返る。蜘蛛にはまだ戦意があった。切り込むが、しかし蜘蛛が振り回した脚の勢いが勝る。ガツッと衝突した手応えは感じられたものの、有効打にはならなかった。

(くそっ!)

 片手にランタン片手に剣というバランスが初めてだからか、体が思った通りに動いていない。そもそも片方の翼を失ってから実戦の場から遠のいている。勘が鈍っているのは明らかだ。もどかしい。

2ラウンド。ブラーク様の攻撃が連続クリティカル。ツェスさんは再び同じ出目2で失敗。防御はふたりとも成功。

 対してブラークの剣は、今もなお研ぎ澄まされている。流水の如く変幻自在の軌道を描いた白刃が、瞬く間に蜘蛛の脚を二本斬り飛ばした。

 蜘蛛は悲鳴など上げない。だが焦っている。まさか反撃に会うとは考えていなかったのだろう。一応こちらに飛びかかってみたものの、脚の欠けた体では勢いが無く、空中でバランスを崩してべちゃっと落ちただけだった。

3ラウンド。ブラーク様の攻撃成功で生命点が半分を切り、入道蜘蛛は逃走。ツェスさんの不調を見て取って、ブラーク様が速攻をかけた感じでしょうか。戦利品として硬化した蜘蛛の糸(ロープとして使用可)と宝物ロールで宝石(金貨50枚の価値)を獲得しました。

 ブラークが駄目押しに脚をもう一本叩き斬ると、蜘蛛は一目散に川に飛び込む。ブラークが念には念を入れて様子を見ているが、もう戻って来ないだろうとツェスは踏んだ。

「ん?」

 ツェスは蜘蛛の体液に濡れた床の上に、水晶が転がっているのを見つけた。何やら台座らしきものに載っていた痕跡がある。もしかしたら儀式に関わるものだろうか。べたべたで気持ち悪かったが、拾って持って行くことにした。

[冒険記録3]45:射出網(昼)

罠です! 対象は主人公1人、目標値5の【器用ロール】に挑戦です。ここは技量点の高いブラーク様で……出目3、ギリ成功。

 川に沿って歩いて行く。道は平らで、明らかに人の手が入っている。この先が墓所に続いているのは間違いなさそうだ。蜘蛛の襲撃にあって以降は静かなものである。亡霊の本体はもう墓所には留まっていないのだろうか。そうツェスは考える。ブラークも珍しく静かである。

 そんな時、突然ランタンの光の中に、ぽーんと黒い球が投げ込まれた。

「うわっ、下がれ下がれっ」

先行していたブラークが泡を食って逃げ戻ってくるついでに、ツェスの手を握って引っ張る。放物線の頂点で黒い球が弾け、中から何と、網が広がって勢いよく降って来た。

 網の端にでも、細かく重りが付いていたのだろうか。一瞬の内に展開した網は、一瞬の内に地面を捉えている。ブラークの判断が早かったお陰で網はふたりの手前に落ちた。広がるのを目視してからでは、とても逃げられなかっただろう。

「何だこれは。知っていたのか」

「ここにあることは知らなかったよ」

「あること「は」?」

「ううむ、歩きながら話そう。私の口からは説明しづらいのだがね」

と前置きしつつも、ブラークは道々に語った。自身の執事頭たるツェスが知らない過去があってはならないとも思ったのだろうか。

「まだ私が駆け出しの聖騎士だった頃の話だ。そう、ブランカに出会って間もない頃のね。遠征が多かっただろう?」

「お陰様でな」

 ブラークの初陣から、ツェスは一緒だった。長く苦楽を共にして、ずっと振り回されている。

「私が留守の間に、領内で悪魔が出た。レディの臥(ふしど)へ忍び込むタイプの、随分と趣味の良い奴が」

「ははあ」

 読めた、とツェスは思った。それで機先を制して言ってやったのである。

「どうせお前に瓜二つだったんだろう」

「その通り」

ブラークは肩を竦めた。

「帰ったらブランカが怒り狂っていたんだ。様々な理由でね。説明は要らんだろうツェス、どれくらい恐ろしいか。我が奥方は銀十字の強者を雇って、それとは別に私の首根っこを引きずって、勇躍リエンス領に急行したのさ」

「浮気を疑われたんだな」

「皆まで言うなったら。まあその通りなわけだが。悪魔に取り憑かれているレディの、その寝所の横の部屋で一晩中ブランカに睨まれながら、まんじりともせずに私は起きていたよ。明け方だったかな。どたんばたんと乱暴な音がして、レディのお部屋にお邪魔したら、ちょうど悪魔が網にかかっていた。ただの網じゃない。最高級の銀糸で編んであった。ブランカが提供したんだろう」

「で、似てたのか」

「おおまかには。我が奥方の怒りの炎に油を注ぐ程度にはね。で、その我が奥方はだよ」

「悪魔を滅多刺しに?」

「いいや。魂を抜かれかけていた哀れなレディの胸ぐらを掴んで、「この醜男を我が夫と見間違えたのか!」と怒鳴りつけた。それからぶん殴ろうとしたので、私がレディの代わりにぶん殴られることにしたのさ」

「惚気を混ぜたな」

「ふ、惚れ惚れするほど正確極まりない一撃だったよ、我が奥方の拳は。気づいたら夜が明けて真昼間になっていた。私の目の周りは真夜中みたいに真っ黒だったがね。本題に戻るが、今の網が射出される球とそっくりな仕掛けを銀十字が使っていたわけさ。それで知っている。……なあツェス、銀十字と言えば彼らは何であんなにデリカシーが無いんだろうな。私に少しだけ似ている悪魔の、銀の網に精気を搾り取られてシワシワになった首を、成果物だって置いて帰ったんだぞ」

 不貞腐れたように締めくくった言葉尻を、今度はツェスが笑って引き取った。この一幕は豪胆なブラークにしても相当堪えたのであろう。不貞を働いたらどうなるか、とっくりと教えられたのだから。