カオスマスターの隠し部屋に繋がる道は開かれました。いざ決戦へ!
(※通路はすでに6種類ともイベントが発生済み。何も起こらなかったものとして処理)
隠し通路の奥には大扉が待っていた。リヴの背丈の三倍はあるだろう。意味をなさない異様な意匠に覆われ、建て付けが悪い。なのに鍵だけはかかっている。
つまりは人の真似事をした混沌の作品。この奥に知性を宿したカオスマスターがいる証拠だ。
リヴは扉を調べ、鍵穴の形状が第2層で拾った黄金のカギに合致するのではないかと見立てた。荷物袋から取り出してはめてみると、やはりピタリと合う。
「準備を」
リヴが言うと、一斉に9人分の刃先が突きつけられる。
「道案内ありがとよ、リヴァーティア。役目は終わりだ」
縞蛇は舌舐めずりした。
「傭兵は雇い主より先に戦うもんだろう、なあ? 勝っちまっても文句言うなよ」
「甘い」
「脅しにしちゃあキレが最悪だな。こっちは9人、あっちは肉の塊がひとつぽっち。どれだけ強かろうが押し包めば終わりだ。どけ、リヴァーティア」
リヴが引き下がったので、縞蛇一行は武器を扉の奥へ進んでいった。にたにた笑いを残して。ご丁寧に扉まで閉めて、施錠したようだ。どうせリヴたちに手柄を横取りさせまいという意図だろう。
怒りで顔を赤くしたソールが、弾かれたようにリヴを見上げる。
「なんたる不逞の輩どもだ!」
「無視しろ。構えておけ。火吹き獣にも臨戦態勢を取らせろ。迷宮の主の首、数で圧し取れるものではない。知っているだろう」
黄昏の騎士とやらとの邂逅の光景が甦ったのだろう。ソールは弓に矢をつがえた。
[最終イベント]隠し部屋
(※「傭兵の一団」イベントで傭兵を雇っていた場合、彼らは次の戦闘を引き受けてくれます。このリプレイの場合はよりにもよってカオスマスター戦だったわけです。縞蛇は金星を上げる目的でリヴに雇用されたのですから、望み通りではあります)
どれだけの刻が過ぎただろうか。
突如ミシミシという軋みが聞こえるや、扉に亀裂が入り、粉々に砕け散った。 縞蛇が転がり出てくる。
あとを追って「しずくの怪物」が3体、部屋からにじり出る。
――それだけだった。
9人の冒険者は何処へ行ったのか。
「蛇!」
リヴが怒鳴ると、極度の恐怖に打たれた縞蛇はわななき、部屋の奥を指差す。
そこには見たことも無いほど巨大な肉塊があった。
「あいつが、全員しずくに変えやがった!」
――うふふ。
と、どこかで女が笑う。縞蛇が奇声を発した。
――まだお客様がいらしたの?
肉塊の中心に目が開く。やはり女の目と思しき柔らかい笑顔を湛えた目。それがリヴと視線を合わせ微笑んだ。
――美味しそう。
そして肉塊に無数の目が開く。
カオスマスター(Lv.4、生命点4、攻撃回数:???)
[カオスマスター戦について]
縞蛇一行から受けた損傷を引き継ぐため、カオスマスターは「Lv.4、生命点5」で戦闘を開始します。
とはいえ油断禁物。縞蛇一行の冒険者を変質させて出来あがった3体のしずくの怪物が脇を固める他、カオスマスターは全体攻撃技【混沌化】を毎ターン放って来ます。
【混沌化】の判定に失敗した場合、リヴたちもしずく化する可能性があるのです!
(※なお生命点についてはTwitterでの公開時に記載ミスがありました。ここで訂正させていただきます)
いざ、戦闘を開始しましょう。
――私を殺すために来たの?
「無論」
とリヴ。
――ああ、その殺意、潰して溶かして啜り尽くして差し上げたら、さぞかし芳醇なお味なのでしょうね。
恍惚とした声が耳をくすぐり、リヴの総身に鳥肌が立った。忌まわしいのに惹かれる。今まで渡り合ってきた混沌どもとは格が違う。戦鎚を持つ手が萎える。
その時、ソールが毅然と言い放った。
「リヴ殿を食すのはおすすめしない。絶対に不味い!」
リヴは思わず戦鎚を床に打ち付ける。
「はあ!?」
ソールは片目をつぶって、
「そう、その調子で、私ではなくあっちと戦っていただきたい!」
――ふざけた男。お前は骨をひとつずつ外してやろうかしら? そうして鳴らすと、人間風情も良い音曲を奏でるようになりますのよ。
[0ラウンド]ソ×、火×
しかし気張って啖呵を切った割には、ソールの放った矢はへろへろと地に落ちる。手が震えていた。先ほどの石壁で混沌につけられた火傷が響いているのかもしれない。
火吹き獣の炎も冴えない。その間にしずくの怪物がにじり寄ってきた。
「リヴ殿、しずくは私が引きつける。どうか前へ!」
(※当リプレイにおいてはソールの攻撃はしずくに、リヴと火吹き獣の攻撃は本体へ向かうとする)
[1ラウンド] 攻撃:リ◯、火× / 防御:しずく→×、◯、× / 混沌化→◯、◯、◯
リヴと火吹き獣は突進。押し潰そうと寄ってきたしずく達の前にソールが身を晒し突き飛ばされる。
「止まるな、止まらないでくれリヴ殿! ひー殿!」
――うふふ。
――いいわ、叫んで、奏でて。
空気がぐにゃりと歪んだ。魔法が万力のように頭を締め付ける。だが辛くも耐えた。
「うるさい!」
リヴが戦槌を振り下ろすと、肉塊が弾けた。だが致命傷ではない。
――ああ、いいわ。いい。もっとちょうだい。貴女の憎しみをちょうだい!
[2ラウンド] 攻撃:ソ◯、リ◯、火◯◯ / 防御:しずく→◯、◯ / 混沌化→×、×、◯
「見よ伝家の宝刀、いやエルフの混沌叩き!」
ソールがラケット状の不可思議な武器でしずくの怪物を叩くと、肉塊はぶつりと音を立て息絶えた。
「せめてお前たちの元の姿を知るこの手で天に帰す。許してくれ!」
リヴと火吹き獣はカオスマスターに肉薄。
炎の凄まじい援護を受けながら、リヴはカオスマスターに戦鎚を撃ち下ろす。瞳が爆ぜる。
――何て貴女の戦鎚は美味しいのかしら!
――強くあろうとして、弱さに抗って、不幸な世界を生き抜こうとして。
――ああ、それこそは我が女神が愛するもの。
――その心を折った時の絶望の味が美味しいといつもご自慢なさっているから。
――ねえ食べさせて、リヴァーティア・イランド。
何故カオスマスターが自分の名を知っているのか。
それに虚を突かれたのが最悪だった。
ぐわん、と視界が歪む。頭に鉄の棒を差し込まれたような激痛が走る。
「あああああ!」
リヴは床に膝をついた。
抗えない。痛みに抗えない。
――今から貴女の心を折りましょうね。
――溶け混ざりましょう、私とひとつに。苦しみも悲しみも溶かしてしまうの。ね?
――うふふ。
何も考えられない。
リヴという真っさらなページに、混沌が言葉を書き入れていく。それは全く正しく、反論の余地もないように思われる。
何よりこの痛みが耐えがたい。耐えたところで頭が破裂するだけではないか。
リヴは頷こうとした。だが何者かが背中を強く叩いて邪魔をする。
邪魔者を押し退けるべく手を伸ばした。
すると何を触ったというのか、背中に燃え上がるような得体の知れない熱が吹きつけた。
――あら、何かしら。邪魔をしないで。私、この方と一緒になりますの。
リヴの脳内に白い熱が押し寄せ、混沌のもたらした痛みを掃き清めた。
熱は言う。
「失せろ。我が迷宮に失敗作の居所は無い!」
リヴの目の前で真っ白な光が炸裂した。
カオスマスターの肉体から怒りが垂れ流された。
――うふふ、私が失敗作?
――お前こそ失敗作よ。人間などに殺されて。
――邪魔をするな、白の魔法使い!
その言葉は脳に響かず耳から聞こえた。正気に戻ったリヴは、正気を失ったカオスマスターが何か宙に掴みかかるように変形し、薄く伸びた分、内部が露出していることに気がつく。
肉塊とは明らかに素材の違う結晶が見える。
マトーシュの言っていた「混沌の核」とはこれのことか?
[3ラウンド] 攻撃:ソ×、リ◯
カオスマスターの核に、リヴはフルスイングで戦鎚を撃ち込んだ。
白の魔法使いの幻影に囚われた混沌には避けようも無い。
肉塊に大穴が開く。核は原形をとどめないほど粉砕された。
――ギイイイイ!
それでも即死はしない。のたうち回るカオスマスターにぽかりと新たな目が開いた。
――うふふ。
しぼんでいきながら混沌は笑う。
――これが絶望の味。甘いわね。私が先に知ってしまうなんて、羨ましくなるんじゃない? 貴女にも知ってもらうべきよ。
「無理だな」
――うふふ。予言をあげる。そう遠くないうちに分かるわ、リヴァーティア・イランド。その時は私の肉に届くまで叫ぶのよ。
呪詛を吐いて肉塊は崩れた。
「リヴ殿!」
「終わった」
ソールがハグをしようとしたので、リヴはやはり顔面を鷲掴みにした。
ということで! 勝ちました!! 本気で怖かったです。 冗長になるので割愛しましたが、縞蛇一行VSカオスマスター戦はスプラッタホラーでした。1ラウンド目で3/9がしずくになり、次に3/6がしずくになり、肉塊になっていく仲間を斬っているうちに気づいたら縞蛇しか立ってないという。