一日一歩のローグライクハーフ/12:黄昏の騎士(前)

冴え渡る弓術によってゴートマンの一団を退けたソールくん。兵士たちの見る目が変わった気がします。ようやくリーダーらしいところが見せられたでしょうか。

続く出目は24。

本来は沼エルフの行商人と出会うのですが、一本道モードはマップタイルをめくった回数を重ねると、特定の出目のイベントが変化します。

何が起こるのか?

──それはほら、聞こえてきませんか。地鳴りのような重い足音が。禍々しく金属の触れ合う音が。迷宮の主のお出ましです。

ちょうどそのような音が一行の元にも届きます。

「何だ……?」

と眉をひそめるソールくん。

「お出ましじゃよ」

やれやれ、と魔法使いは白髭をしごきます。兵士たちも剣を抜いて構えました。 広間の先に伸びる通路、そこからただならぬ気配がやってきます。まるで迷宮全体が騒ぎ立てているような。

「迷宮の主が来た。そういうことだな」

広間に姿を現したのは板金鎧に身を包んだ堂々たる騎士。いえ騎士だったモノです。その後ろには様々な眷属が続いていました。

歩きざま、騎士が高く腕を振りました。何かが放物線を描いてソールくんの足元に落ちます。それは先ほどまで戦っていたゴートマンの首でした。逃げ出した彼らは、不運にもその先で迷宮の主たる黄昏の騎士に会ってしまったのです。

「山羊はまるでつまらなかった。お前はどうだ、ソール・ド・リエンス。我が迷宮のコレクションに加えるに足るか? このように」

騎士の傍らで小姓のように侍っていた小鬼が、何かを素早く掲げます。それはリエンス家の紋章が入ったブローチでした。絶句するソールくん。

「何故、それを」

にやりと笑う迷宮の主。

「さて、何故だと思う? 分からんほど馬鹿だと言うまい。いや馬鹿で当然なのかもしれんな。高慢ちきな、お貴族様だからな?」

【最終イベント】黄昏の騎士との戦い

迷宮の抱え込んだ因縁。

そのブローチの持ち主をソールくんは良く知っていました。

ブローチはリエンス家の護衛隊長のものです。盗賊と大立ち回りして積み荷を護った折、その功績を讃えてソールくんの父親が授けたもの。父が護衛隊長に勲章としてそれを渡す席に、息子であるソールくんも臨席していました。

そのうち護衛隊長は子息たちの武芸指南役にも取り立てられます。

指南役は弓の名手でした。暇な六男坊だったソールくんは指南役に良く懐き、師と仰いで弓の技を磨いてきたのです。

指南役はまた、さる亡家に仕えた元騎士でもありましたので、その立ち居振る舞いや厳しい哲学にソールくんは憧れを抱いていました。

しかし指南役は、高潔さ故に放逐されてしまいます。賄賂を拒否したのです。賄賂を受け取らない隊長に不満を抱いた部下たちの讒言によって、ソールくんの父親から不信を抱かれ、放逐されてしまいました。

ソールくんが家を蹴り出されたあと聖フランチェスコ市に来たのは、師が滞在しているらしいという噂を聞きつけたからです。

その師のブローチが、何故ここにあるのか。

いえ。ソールくんには答えが分かります。

弱者を助けるのは貴き者の本分と、いつも指南役に諭されていたのですから。

「ふん、思っていたよりは察しが良いらしいな、ソール・オ・リエンス。あの間抜けは俺に挑んで死んだのだとも」

そして黄昏の騎士は乱杭歯を見せて笑います。

「久方ぶりに俺を追い詰めるやつが来たと思ったのだが、所詮は人間だったわ。叩いたら潰れちまった。だが鎧を傷つけやがったから、魂はここに縫い付けて永遠に漂白してやることにした。お前、間違って師匠を除霊してないだろうなあ、けけけけけ!」

ソールくんは、不意に気づきます。この肩にのしかかっている【呪い】は迷宮に遺された無念の想い。彼にそれを託すなら──その魂は指南役のものなのではないか、と。

「我が師の無念はここで晴らす!」

ソールくんの宣言を迷宮の主は鼻で笑い飛ばします。

「さて、少しは楽しませてくれよ、おい」

黄昏の騎士は、迷宮の主に相応しいボリューミーな能力を備えています。LV5、生命点6、攻撃回数2。さらに加えて板金鎧を着こんでいるため、各キャラクターは【攻撃ロール】に-1。つまり攻撃の数値にマイナスを抱え込んだソールくんを含め、6を出さなければ相手には響かないということ!

第0ラウンド。

攻撃可能なのは敵味方を含めて弓を持つソールくんだけ。ダイスは……6+2! 渾身の集中力を持って放たれた矢が、こちらをなめてかかり、仁王立ちしていた迷宮の主の鎧を貫きます。

「いい度胸だ。殺したくなる程度にはな」

黄昏の騎士が別の小鬼を呼びつけ、錆の浮いた大剣を持ってこさせます。ソールくんの身長ほどもありそうな重量級の剣。刃はボロボロですが、如何にも血を吸い慣れた危険な気配が漂っていました。

「俺は寛大だ。独りで闘ってやる」

迷宮の端々から、魔物たちの歓声が上がりました。何のおこぼれを楽しみにしているかを言う必要はないでしょう。

第1ラウンド。

[攻撃:ソ=4、魔=1、兵=4、1、2、6+5]

ソールくん一行の連携も、上手く取れるようになってきました。ソールくんが率先して囮を務め、すかさず兵士が一撃を。しかし。

[防御:2、1]

黄昏の騎士は遊んでいただけ。大剣を片手で無造作に振ると、先程彼に損傷を与えた兵士が両断されます。

「おのれ!」

その大振りの背後を狙ったソールくんに向け、巨躯からは想像もつかない速さで蹴りが飛んできました。軽々と宙を舞い、壁に激突するソールくん。生命点に1点マイナス。

第2ラウンド。

[攻撃はすべて失敗。防御は1、5]

よろよろと立ち上がったソールくんに、黄昏の騎士が大股に近づいていきます。仲間たちの攻撃はうるさい虫を払うように退けられてしまいました。

「まぐれ矢で終わりか! つまらん! 抵抗しろ! 俺を楽しませろ!」

そしてまた、なぶるようにソールくんを小突きます。 ソールくんの生命点に1点マイナス。

第3ラウンド。

[攻撃は1回成功。防御は1、6]

背後にむしゃぶりついた兵士が剣を突き立てます。それでも黄昏の騎士にはさしたる痛手では無いという様子。

これは戦闘ではなく、虐殺の遊戯なのだ──と見せつけるように、ソールくんをさらに小突き回します。

黄昏の騎士、ソールくんの生命点に各マイナス1。

(後編に続く)