一日一歩のローグライクハーフ/5:触手の洗礼

冒険が始まります。魔術師に勢いで押し切られたソールくんですが、迷宮に足を踏み入れた途端クリーチャーに襲われてしまいます。初戦闘、乗り切れるのでしょうか。不安!

ここからは、実際のプレイは一日一イベントというTRPGにあるまじきスローペースで楽しんでいました。ソロならではの自由さです。

初めてのTRPGがソロだという場合は、これくらいゆっくりペースでも「あり」だと感じました。

何故かというと、慣れるまではルールの確認に手間取ってしまうからです。『ローグライクハーフ』の枠組みは非常にシンプルで、初心者でも安心の設計でルールが定められているのですが、それでも最初はイベント毎に「どういう手順で判定するんだっけ?」を確認することになると思います(少なくとも私はそう)。

その状態で一気にシナリオを進めようとすると、結構負担が大きいものだと気付きました。

なので、今回は丁寧に一イベントずつ進めてルールへの理解を深めていき、ついでに時間をかけて主人公たちへの愛着も深めていく。結果として噛めば噛むほど美味しい冒険になる。そんなスタイルで楽しんでいます。

さて本題。冒険の始まりを告げるのはd66です。

待って、数学でも始めるつもり!?

いえいえ違います。ご安心ください。私のような数学赤点気質でも理解できます。

d66とはすなわち「六面体のダイス(=サイコロ)を2回振り、1回目の値を十の位に、2回目の値を一の位とします」という意味なのです。

安心できましたね?

「d」と言われたらダイスを振る。そう覚えておけばよさそうです。

習うより慣れよと言いますから、2回振りましょう。コロコロ、コロコロ。

出目は5と6。用意されたイベントの56番目が発生します。

ちなみにd66をしてイベントを決定することを『ローグライクハーフ』ではマップタイルをめくると表現していますので、出来事の順番がわかりやすいように拙リプレイでは下記のように記載します。

【一枚目】56:触手獣×4(LV5)

はてさて、いきなり危なっかしい生き物と出会う運命が定まりました。プレイヤーはやきもきしながら彼を見守ることになります。

では、迷宮の入り口に目をうつしましょう。

ハイホロウの村で、住人たちに涙ながらの大歓迎を受けたときは勇ましく振舞っていましたが、地下迷宮の入り口を前にしてソールくんは途端にしり込みします。

村人たちが「黄昏の騎士は雲を突くような大男だった」「村の若いものが向かって行ったが、片手で首をへし折られてしまった」「数え切れないほどの亡霊や魔物を従えている」などなどと言い連ねたものですから、ただでさえ乗り気でなかったものが、賭け事のカモにされたような気分にされています。

魔術師と黄昏の騎士が共犯なのでは、という疑惑すら脳裏に漂っています。

「引き返すべきではないか?」

ソールくんは前進する兵士たちにそう声を掛けましたが、誰も賛同してくれません。

何と礼儀知らずな雑兵どもだろう。高貴な者に話しかけられたら、返事をするのが正道ではないか! ソールくんは憤慨します。

そうこうするうちに、地下迷宮の入り口に辿り着きました。ようこそカモネギと言わんばかりに開け放たれた扉の奥からは、ひんやりとした風が吹き出してきます。

兵士たちは慣れているのでしょう。躊躇なく扉をくぐって行ってしまいます。ソールくんがまごまごしている間に、ランタン持ちやら太刀持ちも迷宮の中に突入します。

最後に残った魔術師は無言でソールくんの尻を蹴飛ばしました。老齢とは思えぬ脚力です。入り口から先は下り坂になっており、ソールくんは悲鳴を上げながら転がり落ちます。

そうやって大騒ぎしながら突入したせいでしょうか。

薄暗闇に目が慣れると、少し先まで進んでいた兵士たちが戦闘態勢を取り、剣を構えているのが見えました。

「何だ、何が……、うわああああああ!」

ソールくん一行、いきなりどう考えても話し合いが通じそうにない形態のクリーチャーと遭遇してしまいます。その姿はさながら鞭状の触手を生やした陸生のアメフラシ。ランタンの光に照らされて、触手がぬらりと輝いています。しかも4匹も!

さて、ここで戦闘ルールを簡単に記しておきます。

触手獣は【レベル5】です。こちらの攻撃は、パーティひとり毎にダイスを振って、レベル以上の値が出れば成功。相手の生命点を1点削ります。

転じて防御。今回は触手獣が4匹いますから、4回の攻撃が行われる計算になります。4回ダイスを振り、レベル以上が出れば成功。失敗するとこちらの生命点が1点失われます。

また飛び道具を持っている場合は、先制攻撃が可能です。

さらに「反応表」というものを使えば相手の出方を見ることができますが、今回はどう考えても意思の疎通が難しそうな相手です。速攻をかけることにします。

そんなわけで弓を持っているソールくんから攻撃開始。そーれ、コロコロ!

出た目は……1

何という悲劇(喜劇かも)。出目1=確実な失敗!

「ぎゃああああああ!」

悲鳴を上げて矢を放った途端、ソールくんは腰を抜かしてしまいました。へろへろ矢は触手獣にぺいっと弾かれております。ソールくんは羞恥のあまり顔が真っ赤になりました。

「しょうもない奴じゃのう~。それ、我らだけでも行くぞ!」

魔術師が勝手に号令をかけます。慌てて立ち上がったソールくんも何とか剣を受け取って戦いに加わりました。

おいおいと呆れながらプレイヤーはダイスを振ります。

【攻撃】ソ=5、魔=6+4、兵(3、4、3、6+3、3、4;斬撃なので+1)

出目6=確実な成功。攻撃時はもう一度ダイスを振ることが出来る!

書きそびれましたが、雇用時に兵士たちは【打撃】か【斬撃】かどちらの攻撃をするかを決めておきます。今回は【斬撃】を選んでおりまして、これが触手獣には相性が良いということで全員の出目に+1されます。

触手獣のレベル5の数値が5回出ています。

触手獣は生命点=1点ですので、4匹とも倒せたということになりました!

まずは無事に初戦を切り抜けた一行。

しかし格好悪いところを見せてしまったソールくんにとっては、苦い勝利となったはずです。貴族としての矜持も見栄も経験も、この迷宮には通用しないのかもしれません。

ぎこちなく寄り固まってこちらを見ている兵士たちに、ソールくんは精いっぱいの虚勢を張って、

「先に進むぞ」

と言います。顔は真っ赤なままでした。