ではソールくんの背中を押すとします。はじまりの物語を仕立ててみました。
[はじまり]
ゴンドラに乗ってはしゃぐ観光客の明るい声が聞こえてくる。
ソール・オ・リエンスはうんざりして運河から目を背けた。
(なぜ私がこんな目に……)
商人という卑しい身分から駆け上がって、今や貴族の仲間入りを果たしたリエンス家。その正当なる息子である自分が、庶民の酒場でむっつりと、懐の具合を気にすることになろうとは。
「世間を知ってこなくては話にならん。一年は帰って来るな。いや一生帰ってこなくとも怒らんぞ」
と父親から追い出されてはや一ヶ月。
持たされた路銀は世間知らずのカモを見分ける目に長けた街道筋の商店であっとういう間にむしり取られ、残った金貨はわずか十枚。
これでどうしろというのだ!
もとは商人の家ではあるが、五男坊のソールには商いの知識など分けてはもらえず、一応は大学も出たものの学者というには程遠い成績で、身を立てる術は何もない。
だが策を講じなければ飢え死にか、父の慈悲に縋るより他になかった。
どちらも嫌だ。
ということでワインをあおる。
味は薄いが、何とかほろ酔いには持ち込めるような酒だ。何より安かった。
<パンと赤ワイン亭>は観光客にも人気の酒場で、庶民というには豪華な服を着たソールがちびちびと杯を重ねていても、特に目を引くことはない。
一通りの観光はしてしまったし、もう飲むくらいしか時間を潰す術が無かった。
気持ちは焦っているが、どうやって人生を好転させればよいのか皆目見当がつかないのである。
その時、ソールの差し向かいに一人の男が座った。
周りの席は満席だから、たまたまそこにスペースを見つけたのだろう。
くたびれたローブを着た男は、父親ほどに歳をとっているように見えた。
ソールは無視してエールを飲んでいたが、ローブ男はその顔を覗き込み、
「おやおや」
と白く立派な髭をしごいて笑うではないか。
庶民の無作法はソールをイライラさせたが、努めて顔に出さないようにする。
「ご老人、私に何か」
「ほっほ、ご老人ときたか。これまた大仰な」
「申し訳ないが、あなたと酒を飲む気分ではない」
「貧乏の縁に立っとるからの。ああいやいや怒るな怒るな。たかりに来たわけじゃないわい。若者はこれだからいかん。間も無くお前さんに転機が訪れるぞ、ソール。父親よりも大金持ちになり、祖父よりも名声を成すじゃろう」
どうして私の名前を、と聞こうとしたところ、酒場の扉が開き公示人が入ってきた。
迷宮の主を追い払いたいと言う。
ついては討伐に名乗りを上げる者を募集すると。
「私に手を挙げろと? そんな馬鹿馬鹿しい労働などできるものか」
公示人の元に我先にと冒険者たちが名乗りをあげている。
ソールは冷ややかな目を彼ら彼女らに注いだ。
みな着ているものは得体の知れない革や鱗で出来ていて、剣呑な武器を履き、荒っぽい仕草でがなりたてている。
これだから教養の無い者たちは嫌なのだ。
「挙げなされ、挙げなされ」
とローブの老人がソールに笑いかけた。
「嫌だ」
「頑固じゃのう。冒険は求めんか」
「私のできる冒険とは、肉体を酷使して得るものでは無い!」
ふーむ、とため息をついた老人がパチンと指を鳴らした。
するとどうだろう。
公示人の前に群がっていた冒険者たちがばたばたと気絶したではないか。
驚くソールに老人は片目をつぶって見せ、
「何、儂の<気絶>の魔法も捨てたものではないぞ。さあ公示人どの、ここにおりますぞ、迷宮に赴く勇者が! リエンス家のソール!」
「ご老人!?」
酒場がざわつきます。
リエンス家の名が出たからでしょう。
「さてここで断っては名折れというもの。ほうれ、リエンス家のソールは腰抜けと、津々浦々に知らしめても良いんじゃろか。永遠に放逐されたまんまじゃぞ〜」
ということで、なし崩し的にソールは迷宮へ向かうことになったのでした。
「くっ、行きたくは無いのだ、無いのだぞ!」
[続く]
ひとりひとりの登場人物に対して、プレイヤーが自由に物語を設定できるのも、TRPGの楽しさだと感じます。でも、誤解が無いように書いておきますと、こんなに細かく考えなくちゃいけないってルールがあるわけではないです。各々のスタイルで良いのだと思います。
さて、ここで気合を入れる為にミッドジャーニー先生に向かって「ソールくんのイメージ画を描いて」という呪文を詠唱してみました。
おっと、なかなか整った顔立ちの青年がお呼び出しされてきましたね。
こんな感じのソールくんの顔を思い浮かべながら、これより迷宮の探索に乗り出すといたしましょう。
果たして無事に帰還することは叶うのか。
いざ、ダイスを振って、運命を定めましょう!