激闘の末に黄昏の騎士を討ち取った一行。でも物語はまだまだ終わりません。それがTRPGというものです。「次」の冒険に向けて戦利品など諸々の処理をしていきます。
……いや、ソールくんの最後の出目6は格好良すぎでしょう!?
振ったあとプレイヤーは思わず叫んでました。これが主人公というものなのだなあ。
さて、冒険の一番の目標である黄昏の騎士の討伐は成りました。
ボコボコにされたソールくんはブローチを胸にかき抱いたまま迷宮の中でばったりと気絶しましたので、実のところどうやって帰ってきたのかは覚えていなかったりします。
でも目を覚ました時には、
「旦那が起きた、起きたっすよお!」
という雄鶏も顔無しの叫びと共にタッチウッドくんが触れ回ったので、村長さんが提供してくれた村でいちばん清潔そうな寝室は、あっという間に人で埋まってしまいました。
青あざだらけの顔を気にする事も無く(ソールくんは大いに気にしていました。こんな時に肖像画を描かれたらたまらないと思って)、村人たちはソールくんに感謝の言葉を述べ、村を挙げた祝宴は三日三晩続いたのです。
それがひと段落し、ソールくんの顔も見れる程度に腫れが引いたころ、戦果を報告するために一行は聖フランチェスコ市へと帰還しました。
さて、今回の戦利品は以下の通りです。
とてもリッチになった気がします!
悩みに悩んでソールくん、宝石①③を売って金貨55枚を手に入れました。②はいざという時の蓄えということで。
そしてそのうち金貨10枚を、今回の殊勲賞であるタッチウッドくんの結婚資金として贈ると宣言しました。ケチケチするのは貴族の恥です。何より人生の門出は盛大に祝ってやりたいものでしょう。
冒険の帰路でそれを聞いたタッチウッドは大いに喜び、生き残りのもうひとりの兵士と抱き合いました。
「ああ旦那、ありがとうございます、旦那最高!」
ソールくんは微笑み、
「結婚式には呼ぶのだぞ。お前の幸せな花嫁どのの姿も見たいからな」
するとタッチウッドくん、キョトンとした後、腹を抱えて笑い始めるではないですか。
「……? なぜ笑う?」
「気づいていなかったんすね、旦那。ほら挨拶しろよ」
タッチウッドくんの横を歩む兵士が兜を取ります。その下に隠されていたのは、若き女戦士のはにかんだ顔でした。
「なんと──」
「てなわけで、オレたち結婚しまーす!!!」
◇
聖フランチェスコ市の〈パンと赤ワイン亭〉を貸し切って、タッチウッド夫妻の結婚式が華やかに行われています。ソールくんが彼らの武功も余すことなく報告しましたので、市に対する脅威の排除に貢献したという旨で、聖フランチェスコ市からも結婚式の資金を出してもらうことが出来ました。
このあと二人はゴンドラに乗って市中を回り、人々の喝采を浴びる予定です。今度はソールくんも、鬱々とせずにゴンドラを眺めることができますね。
その喧騒からひとり背を向けて、魔術師は路地裏へと身をくらませます。怪しげな魔道具店に入り込むと、空の鳥かごをひとつ注文し、慣れた様子で二階へ上がって行きました。
「ふう、やれやれ」
そして白髭に手をやると、それをベリベリと剥がします。
続いて顔をつるりと撫ぜると、何ということでしょう。老人の皺は顔から消え、変わって現れたのは落ち着いて厳格そうな雰囲気を漂わせた壮年の男性でした。
彼は鳥かごに向かい、こう言います。
<精霊よ、我が声を運べ。発、タクシヌス・コヤム。あて先はブラーグ・ド・リエンス様に。ご子息のソール様は無事に危機を脱し、もしやしたら冒険者の道を歩まれるやもと。弓の技には見るものがございました。わたくしは執事として、ソール様の道行きを見守ろうかと存じます。以上>
鳥かごの口を開けると、見えざる何かが飛び立っていった気配がありました。
そして執事タクシヌスは振り返り、誰もいない部屋の片隅を見つめて言います。
「ソール様に弓の技を授けてくださってありがとうございます。私もこんな風に騎士仕込みの棒術が役に立つと思いませんでしたよ。付け焼き刃の<気絶>の魔法の方には出番がありませんでしたがね。皮肉なものです。さて、貴方も一緒に行きますか、この先の旅へ」
執事が変装を戻し、老魔術師となって〈パンと赤ワイン亭〉に戻った頃には、彼の主人たるソール・ド・リエンスはすっかり出来上がり、机の上で酔っ払い同士で肩を組んで、陽気な歌など熱唱しておりました、とさ。
◇
斯様な幸せのうちに今回の冒険は幕となります。
まだ黄昏の騎士を巡る因縁はつづくのですが、それは別の機会に語られることでしょう。
めでたしめでたし!
◇