一日一歩のローグライクハーフ2/⑪任務完了、そして。

偶然ながらスネージの長を発見、救出したふたり。ひとまずスネージ一族の拠点まで戻ってきました。

[ひとくぎり]

スネージの拠点で下にも置かない扱いを(ただし丁寧だが渋々さが透けて見える感じで)受けたふたりは、帰還した日の夜半に長から呼び出された。

「リヴァーティア・イランド及びソール・オ・リエンス。この度は情けなくも命を救われたこと、感謝する。私が救出を懇願したことは、他言無用としてくれたまえ」

エルフが頭を下げる光景は初めて見た。リヴはきな臭さを感じる。

「その上でご両名に協力を願いたい」

そら来た。リヴはすかさず口を挟んだ。

「ソールの話を聞くのが先だろう」

弾かれたようにソールが振り返る。剥き出しの驚きが顔に貼りついており、不覚ながらリヴも軽く笑ってしまった。名で呼んだのは初めてだったなと思う。

「わかった。承ろう、ソール殿」

「スネージの長殿。単刀直入に申し上げます。私は貴方が今まさに腰に履かれているその剣を、買い戻しに来たのです。我が家で大切にされていた剣なのですが、その、私が情けなくも質に入れてしまい、手違いでこちらに」

長の眉間にむっと縦皺が刻まれた。

「見間違いだろうな、ソール殿」

「えっ」

「エルフは人間の剣など求めない」

「し、しかしあなたの剣は確かに」

埒があかない。リヴは白の魔法使いの部屋から持ち去った水晶の駒を取り出し、勢いよく机に置いた。カツン、という硬質な音が不毛な会話を一旦停止させる。

「これと交換だ」

「何だと、何だそれは、私か、私とゴダイバ……」

スネージの長の手が伸びるより速く、リヴは再び駒を自分の掌に収めていた。

「リヴァーティア!」

「これに興味があるか?」

「……」

「悪い取引では無い。最後にお前を縛り付けていた術なのだろう」

額に青筋を立て、スネージの長は頷いた。それから自ら剣を腰から外し、ソールに手渡した。

リヴは水晶の駒を机に置く。

「私の契約は終いだ」

ソールは深々と頭を下げた。

スネージの長は机の縁を神経質に指先で叩きながら、

「そちらの用事は終わったな。では、単刀直入に申し上げよう。混沌迷宮には大禍が生まれようとしている。即ちカオスマスターだ」

ソールがきょとんとしているので、スネージの長は言い添えた。

「迷宮の深部にいる混沌は、育つと手がつけられなくなるのでね。知性、あんなものは知性とは呼びたくないが、とにかく狡猾になる。魔法も使う。全く忌々しい。そういう個体を我らはカオスマスターと呼ぶ」

「出現する兆しを発見されたと?」

スネージの長はソールの問いには答えず、リヴを見て、

「リヴァーティア、迷宮に感じたことがあれば述べてくれたまえ」

「迷宮自体が混乱している」

「慧眼だ。白の魔法使いの遺産が活発化しているように見えるのは、深層に巣食っている混沌どもの動きが激しくなっているせいだと私は推測している。そこで私はオークどもに共闘を申し出たのだが、その協議の場におふたりも参加して欲しい。戦士が多い方がオークには押し出しが良いだろう。この期に及んでエルフのみを欲するようなことはせん」

拒否されることなど毛頭考えていない鷹揚さで、スネージの長は言った。

リヴは冷ややかにその長命種の顔を眺め、それから応じる。

「御託はいい。契約条件をとっとと言え」

と、ここまでが『混沌迷宮の試練』一回目の物語になります。一回目? そうです。三回遊んで物語が完結する仕掛けになっているんです。ということで、プレイヤーは二回目の冒険にチャレンジしてきます。ここまでのお付き合い、ありがとうございました!

そしてTRPG初めてみようかな、と心がうずいたあなた、是非やりましょう。あなただけの物語、あなただけの冒険です。

再びダウンロード先を貼って、一旦のお別れです。

良きローグライクハーフを!

https://ftbooks.booth.pm/items/4671946

リプレイを綴ったシナリオは『混沌迷宮の試練』(FT書房、作:杉本=ヨハネ、監修:紫隠ねこ)の一回目の冒険。

「東洋 夏」がリプレイプレイヤーとしてお届けしました。