ここからは『渾沌迷宮の試練』2回目の冒険のリプレイです。と申しますのも、このシナリオは3回迷宮に挑むことでストーリーが完結する仕掛けになっているからなんです。黒エルフとオークの関係は? カオスマスターとはいかなる脅威なのか? プレイヤーにもまだ先が読めません。どうぞご一緒に、冒険を見守ってください。
[冒険の準備]
前回の迷宮探索で、金貨30枚と宝石(40枚相当)を獲得しています。激戦が予想されるため、宝石を売って、ポーション(金貨50枚)を買い、リヴさんに持ってもらいます。
ほら、ソールくんに任せると、いざって時に自分が床に伸びてたりしそうなので……。
彼は酒瓶も持ってますしね。
(※ここでプレイヤーは見事に経験点による成長を忘れています。ルールブックの"1つの迷宮を攻略するごとに1経験点を取得"を読み違えておりました。1回の冒険の完了で1経験点の取得になるようです。3回目の冒険の際に2レベル分の加算をしたいと思います)
[再びのはじまり]
それは誇り高きスネージ一族の長が、敵種族の長に休戦協定の申し入れをしに行こうとする、その道中のことであった。
黒エルフのスネージ。土着オークのゴダイバ。
ふたつの種族は、混沌迷宮そのものを巡って縄張り争いを繰り広げている真っ最中である。
そも争いを引き起こしたのは黒エルフの方だということは、この際、黙っておこう。
スネージ一族の長は自ら赴いた迷宮探索の結果、ふたつの種族をもろとも滅ぼしかねない異変が混沌迷宮の内部で進行しているとの結論に達し、矜持を曲げて黒エルフの側から休戦を提案したのだった。
使者が往来すること数度。ゴダイバも休戦を呑むという。
最後は長同士で顔を合わせるべきであろうと訪う、その道中──。
スネージ一族の長は馬に乗り、五人ほどの取り巻きを同行させている。 黒エルフの一団の最後尾にリヴ、ソール、火吹き獣。 時折スネージ一族の長の息子が振り返り、ソールと談笑を交わしている。
ふたりのやり取りを観察していると、どうやらソールの着ている服に興味があるようだった。
関係ない、とリヴはそっぽを向く。
リヴが肌を添わせるものといえば、それは何よりも頑健で、冷たく、信頼のおける鎧だけでいい。
その時、梢から先行させていたエルフがひらりと降りてきた。
「長、急報です。それが……」
「息を整えてからにせんか。客人の前で見苦しい」
馬の上から一喝され、斥候のエルフはしばし項垂れ、それから意を決して話はじめる。
「……ゴダイバの長がいなくなりました」
「な、何だと!」
黒エルフの一団がざわついた。
休戦の条件は既に詰められていた。
あとは仕上げとして長同士が顔を合わせて約定を結べば山よりゆるがぬ誓いになると、歴史的な一幕になるだろうと、そうスネージの長は一族に喧伝していたのである。
「わけがあるはずだ。混沌どもが騒がしくなったか、部族内のいさかいでもあったか」
「長、それが」
斥候は暗い顔をして言い淀んだ。
「ゴダイバの長は、今朝になって急に混沌迷宮の深部に潜るための装備を持って出かけたのだそうです。若いオークの幾人かが昨日から迷宮へ入っており、先行させていた可能性があるのではと」
「まさか」
スネージの長はわななく。
「まさか、私が迷宮を攻めぬことを確約しているこの日に仕掛けてきよったか! 何という恥知らずな! いや、オークどもに恥などという高尚な概念があるはずもないわ!」
顔に泥を塗られて怒り狂ったスネージの長は、冒険者たちに向けて馬首を巡らせる。
「リヴァーティア・イランド、ソール・オ・リエンス、ご両名。契約変更だ。只今より第一目標は」
黒エルフの双眸に、彼らを堕落へと誘った悪の光がちかちかと瞬いた。
「ゴダイバの長の首、とする」
ああまさに、何と唾棄すべき弱さであろうか。
大事の前の小事に溺れるは、愚者の浅知恵。
リヴの最も忌み嫌うところではあるが、しかし、雇われたからには仕事を完遂することが冒険者の任であり、それを放棄することは弱さの表れなればこそ拒絶はしない。
「高くつくぞ」
リヴはそう吐き捨てた。