一日一歩のローグライクハーフ2/⑯青年よ、学べ

……賑やかな出会いでしたね! ゴダイバ側にものっぴきならない事情がありそうだとは察せられました。あとは長から事情を聞きだしたいところです。
[5部屋目]55:鉄のしずく(出現数1)

「リヴ殿、今の鳥人たちはいったい?」

「死体剥ぎ」

ソールの喉には大量の疑問がつかえて、かえって何も言えなくなったようだった。

その行為は正当なものなのか? 卑しい職業の者とリヴの関係は? それから、そう──この先に大量の死が待ち受けているということか?

リヴはそれらの疑問に答えてやる気はなかった。答えは自らの目で見て得るもので、正義の輪郭は自ら定めるものだ。他人に押し付けられたものを咀嚼なく飲み込むようなら、冒険者としては成り立たない。

さて、部屋の出口は北と西。

鳥人の情報によれば第三層にゴダイバのオーク達が多数息絶えている、ないし武器も放り出して逃げ出したオークが多数いる事になる。

その先頭に立っているのは長だろうから、リヴの請け負った仕事を完遂するには第三層を目指すべきであろう。最短距離を取るため西へ向かう。

次の部屋に入った途端、火吹き獣が身構えた。部屋の隅に、きらりと光る不定形な「何か」がいる。

「鉄のしずくか」

「何だそれは」

「混沌」

ソールは首を傾げる。

「私の聞いたところ、混沌の体は肉塊。しかも群れる性質ではなかったか。一体きりだぞ」

「ああいうのも居る」

視線が嫌なのか、金属光沢を持つ混沌は器用に形を変えた。人の拳を模倣した五本指を作ってからの、挑発のポーズ。

「うむ、確かに友の少なそうな性格だな!」

(反応表6→敵対)

ソールの弓が、火吹き獣の炎が混沌に向かう。

しかし体を一振りしただけで、混沌は攻撃をかわしてしまう。見た目からは想像できない素早さでリヴに向かってきたので振り払うと、床に落ちた混沌は、壁の割れ目へ染み込むようへ逃げ出して行った。

[0ラウンド]ソ×、火×

[1ラウンド]防御〇/攻撃リ×、火×

鉄のしずく、上首尾にも討ち取れると重要な「手がかり」をゲットできるようなのですが、残念ながら今回は手も足も出ませんでした。残念。
[通路]6:選別の刃(難易度4→成功)

鉄のしずくと遭遇した部屋から南へ。

通路には刃が飛び出す仕掛けが組み込まれていたものの、落ち着いて回避をした。ソールが潰れた蛙の如き悲鳴を発したが、まあ落ち着いている方だろう。

この先の部屋に、三階層目に続く階段がある。 躊躇なく踏み込んだ。

大きな影がランタンの光に弾かれて散乱する。リヴよりなお背の高い、立派な風体のオークがその階段の前で立ち尽くしていた。

「ゴダイバ!」

[最終イベント]敵部族長との戦い

リヴの一声に、年古りたオークは怒号で返した。

こちらの意図を察しているに違いない。

人間とオークでは話す言葉が違う。普段なら通訳を横に置いているが、今は長ひとり。それでもオークの叫びに込められた怒り、悔しさ、捌け口のない絶望の前には、言語など不要だ。

「ソール」

後ろで青二歳が背筋をしゃんと伸ばしたのが分かる。分かってしまうようになった。

「どうしても戦うのか」

「話は通じない」

「だが、カオスマスターとやらが本当にいるのなら」

「首」

リヴとて馬鹿では無い。カオスマスターが出現するなら、その前で潰し合うなど愚の骨頂。弱者の論法だ。

しかし、それはそれ。請け負った以上は仕事は果たさねばならぬ。不義理な冒険者になる気はない。

「分かった」

わきまえているなら良し、とリヴは思う。

再度、ゴダイバ、 と呼びかける。苦々しい唸り声のあとに、ゴダイバは何かを言った。だがリヴには分からない。言葉が違うということの、何と不便なことか。

「訴えは、スネージにするべきだった」

首の黒いスカーフを引いて見せたその瞬間。ゴダイバの長が盾を構えて体をたわめ、バネ仕掛けのように飛び出した!

[0ラウンド]ソ×、火〇

慌ただしく射かけた矢は盾にそらされる。その後ろから放たれた火球がオークの足元で爆ぜ、突進の勢いが僅かに鈍ったものの、強烈な体当たりがソールを襲う。まずは見慣れぬ余所者から仕留めに来たのだ。

[1ラウンド]防御ソ×、リ〇/攻リ〇、火×

だが長はリヴから目を離すべきではなかった。楯の下からすくい上げる角度で、強烈な戦鎚の一撃が放たれる。オークの骨すら軋む打撃。

長は大きく息を乱し、口から血を吹きこぼしながらも、乱杭歯の間から何かを語りかけてくる。 分からない。分からないのだ。リヴが首を振るやオークの鎚が立て続けに振り下ろされたが、妙だった。殺気が無い。

[2ラウンド]防御リ××、火〇/攻ソ×、リ〇、火×

さらにリヴは押し込む。 楯の構えは散漫で、戦鎚は簡単にオークの膝を叩き崩す。

やけくそのように放たれるオークの反撃を敢えてリヴは受けた。だがその先が無い。いつもの勇猛果敢なゴダイバの長であれば、リヴは今頃乱打の嵐の中心にいるはずなのだ。

[3ラウンド]防御リ×、火〇/攻ソ〇 → 生命点の半分を削ったので戦闘終了

やはりオークの攻撃は鈍い。かえって槌をかわしたソールに太ももを刺された。

ゴダイバの長は喘ぎ、壁を支えに立ち上がる。

「リヴ殿」

ソールも気づいている。ゴダイバの長には決定的に戦意が欠けていると。しかし理由を知りたくとも、

「言葉が通じない」

「私に任せていただくことはできるだろうか」

ソールは剣を鞘に納める。もう何の敵意も持ち合わせていない、と伝えるように。

リヴは訝しんだ。

「あなたが主として請け負った仕事だ。私が出しゃばるのであれば、あなたの許可を得なくては」

「そうではなく」

「言葉なら、わかるのだ」

「何だと」

「私が話してもいいだろうか」

後で叱ろう。持てる技能は事前に申告すべきだと。それよりスネージに、オークの太首を千切るより、カオスマスターをすり潰すことを優先せよと説得する方法を考えるべきだ。

オークの長の小さな瞳が、せわしなくリヴとソールの間を行ったり来たりしている。恐慌の色が見て取れた。

「やれ」

「リヴ殿、冷静でいてくださったことに感謝する。さてゴダイバの長よ……×××××、×、×××……」

その先はリヴには全く聞き取れなかい、だがカオスマスターという言葉だけは耳に入った。その言葉を潮に、オークは目を見開き、肩の力を抜いて武器を投げ出し、どすんと地面に座る。

ソールはリヴを振り向いた。

「投降すると仰っている。スネージの長の元へ出向くと 。その、あの、リヴ殿……私は、また何か間違えたのだろうか?」

四人は歩き出す。オークの長は最後に振り返り何かを呟いた。それが謝罪であることは言葉は無くともリヴには伝わったのである。

よかった~! ゴダイバ・オークの長を討ち取る道は回避できたようです。無駄な流血は弱です! なお「言葉が伝わらない」設定については、アランツァ世界の言語の分類より着想を得たものです。メルマガで明かされた世界観と、これまたFT書房様に質問をさせていただいた回答により成り立っています。以下に簡単に書き置いておきます。

・それぞれの種族ごとの言語の他に、【善の種族】【悪の種族】の共通語がある。

・人間=善、オーク=悪なので共通言語が無い。

・黒エルフは、悪に分類される闇エルフとは別の種族。黒エルフはアランツァ世界では稀な、善悪どちらの共通語も話すことが出来るバイリンガル種族!

ということで、スネージの長とは普通に会話出来て正解とのことでした。

世界の解像度がぐんぐん上がっちゃいますね。

ちなみにですがソールくんが何故話せるのかについては、3回目の冒険ででもサラっと書けたら良いなと思っております。

そんなわけで、意気揚々と迷宮から帰りましょう!