いわくありげな黄金の鍵を手に入れた一行。白の魔法使いの意図や如何に。謎は深まるばかりですが、今はただ前へ進むのみです。
[4部屋目]25:鳥人の商人(出現数5)
黄金の鍵を手に入れた部屋の奥、方角にすると南西方向に小部屋がある。そこから武器が触れ合うような物音がしていた。
「何か聞こえる」
ソールが言った。
「あいにく耳は悪くない」
リヴはうんざりしている。振り返らなくても、叩かれた子犬じみた顔をしているのであろうことは、容易に察された。それが脳裏に浮かんでしまうようになったのが、ひどくリヴを苛立たせる。
リヴが顔を覗かせると一斉に羽ばたきの音がし、後悔する。前門に物理的鳥頭、後門に精神的鳥頭だ。あれの相手は苦痛だ。
(ここで反応表を振ります。出目1→逆ワイロ)
「きゃーっ、リヴ様じゃない!」
冒険者の装いに身を包んだ鳥人が五人。中でも一際体の大きな白い鳥人が冠羽を逆立ててキンキン声で叫んだものだから、脳天を万力で絞められたような頭痛が生じる。
「今日はまた一段と打撲傷の多いリヴ様じゃございません? その辺で何か仕留めて来ました? 気に食わない冒険者のミンチ?」
「黙れ」
鍵型のクチバシでにやりと笑った鳥人は、首の羽をぐいっと引くポーズ。こちらの黒いスカーフ、つまり黒エルフとの取引の証を示しているのだ。
リヴはこの白い鳥人が率いる一団と面識がある。いつも混沌迷宮に潜っては、落し物を拾って持ち帰り――落し物というのは命を落したモノ、魂を落したモノということだが――外で売りさばいている連中だ。迷宮の情勢には詳しい。
「喋る気はあるか」
「ここを見逃していただければね」
彼らはここで荷物の整理をしていたのだろう。白い鳥人の背後では、仲間たちが武器や防具を束にして縛り上げている。
「好きにしろ」
そういうと、白い鳥人はしなを作るように身をくねらせた。わざとらしい。
「リヴ様超寛大! 大好き!」
リヴは鼻で笑った。
「大好きだから今日は独り言が多くなっちゃうなー! 鳥人のクチバシには蓋が出来ないものねえ! あーあ、迷宮の三階層めはゴダイバ印の武器が沢山! そんなに恐ろしい何かがいるのかなって感じ? でもゴダイバの武器なんて誰が買うのかな? 無骨だしい、重いしい、混沌を潰すにはいいかもしれないけどお、インテリアにはサイアクね! てなわけで在庫処分でお安くしとくけど、おひとついかが? んー、でも後ろの優男サンには重いかな? やだリヴ様ったら意外とそういう子が好……ぴっ」
誰も反応できない速さで、リヴの戦鎚が鳥人の嘴に添えられていた。
「蓋は出来ないが、砕くことは易い」
ぶるぶる震えて何も喋らない──喋れない白い鳥人の脇から、灰色のフクロウの鳥人が平身低頭の姿勢で出てきて、戦鎚を握るリヴの右の手のひらに金貨をぎゅうぎゅうと押し込んだ。
「お許しください、お許しください」
「寝言でも潰すぞ」
「それはもう、それはもう」
そしてリヴは戦鎚を引いて、言った。
「カオスマスター」
「んまっ! 外でも噂が立ってるってことお」
白い鳥人は瞬時に立ち直った様子で相槌を打つ。この厚かましさも世を渡る強さか。
「じゃあスネージさんは?」
「同盟を求めようとした」
「ふーん、でそっぽを向かれてリヴ様とあのかわい子ちゃんが送り込まれたと。いやいやいや、声に出さないと考えがまとまらないタイプでしてー。じゃ、もう少し稼げそうですねー」
「手負いのトロルガもいる」
「この階層に? またまたー! えっ、冗談じゃない? まー、そうねえリヴ様冗談苦手だものねエえ。……全員撤収するぞオラッ!!!」
慌ただしく去っていく鳥人達に、ソールが、
「トロルガは北に逃げたぞ。気を付けて!」
と声をかける。振り返った白い鳥人がウインクひとつ。
「超かわいいー!」
「誰が……? トロルガが?」
流石に膝から崩れ落ちそうになったリヴである。
この部分を書くにあたっては、FT書房様に「鳥人」について質問をさせていただきました。丁寧なご回答をいただきましたので、下記に貼り付けておきます。
そしてこちらが、ミッドジャーニーが写し取ってきた「白い鳥人の冒険者」の似顔絵です。書いているうちに段々と愛着がわいてきました。
混沌迷宮は"かつては鳥人マトーシュが祝福した"地ですから、もしかしたら鳥人たちには馴染みの深い迷宮なのかもしれませんね。
皆様の探索される混沌迷宮にも、きっと個性的な鳥人さんたちがいらっしゃることでしょう。良き出会いになることを祈っております。