一日一歩のローグライクハーフ2/⑮黄金の鍵

ゴダイバ・オークたちとの乱闘を無事回避。次は固定マップモードならではのイベント「通路」です。

第1層の階段下の部屋から西側に出て、真っすぐに進んだ場合は「通路」のイベントが発生します。

一本道モードでは出会えない通路表のダイスロールをしていきますが、安心してください、シンプルです。ダイスを1個振るだけです(1d6)。

ということで、振ってみましょう。

勢いよくひーちゃんに引きずられていったソールくんの運命は……

[通路]5:油の入った壺(難易度3→成功)

通路の奥で、液体が高いところから床へ流れ落ちる、バシャーンという音がした。

「うわっ」

続くのはまたもやソールの悲鳴。やれやれ、手がかかる。

「見てくれリヴ殿。上から油が降って来たのだ、このように! 何という恐るべき罠であろうか。ひー殿が直前で止まってくれたからいいものの、そうでなければ……うむ、震えが止まらんな!」

直前まで火吹き獣に引きずられてひいこら言っていたのは、どの口だったのか。ソールの図太さには敬意を表しないでもないが、表したいかと問われれば断固否定するであろう。

ともあれゴダイバの仕業だ、とリヴは直感する。

身綺麗であること――それによって土臭いオークよりは味方を集めやすいのだ――に気を使っているスネージ一族は、頭から油を被ったら途端に士気が下がるのは間違いない。

ゴープ市の巡回兵たちも、油を被った状態で火吹き獣の隣を歩きたくは無いはずだ。火だるまになるのは目に見えている。

その二組はゴダイバたちにとって明確な「他者」である。それらを忌避しようという試みなら、単純な罠だが効果的だ。

もうひとつ、この先にゴダイバが隠したい重要な何かがあるのではという直感もある。あくまで推測としてだが、冒険者が生き延びるにはその第六感じみた感覚も重要となる。

「リヴ殿、さらにあちらを見ていただけないだろうか」

とソールが石壁を指さした。

「トロルガが体を擦り付けた跡のように思えるのだが」

ソールが示したところには、確かにリヴの背より高い部分にまで液体が散った形跡があり、煤と灰褐色の皮膚の混合物もこびり付いている。トロルガは罠に気づかず油を頭から被り、ますます混乱して擦り落とそうとしたに違いない。

その大きな染みは北へ向かっていた。

ならば我らが行く先は、南である。

[3部屋目]11:黄金のカギ

通路を南へ。

途中でゴダイバの作業場に繋がる通路との交差点があり、足を止めて様子を伺ったが、オークたちは作業に集中していて通路に出てくる気配はない。

その開口部を足早に過ぎると行き止まりに扉がある。施錠はされておらず、リヴが戦鎚で軽く押すだけで内に開いた。

何かが変だとリヴの鼓動が告げている。

部屋はがらんどうだ。混沌迷宮においては、それは不自然である。

迷宮は生活の場であるとともに、生物が行きかう場所だ。

ひとつひとつの場所に意味がある。痕跡がある。役割がある。

しかし、ここには無い。なにも。

警戒してリヴが眺め回していると──カチリ。

振り返る。 扉を閉めたソールと目が合う。

「な、何か私は間違えたのか」

「手を離せ!」

「えっ」

ソールが飛び退いたのを合図に、地面が揺れた。否、揺れたのは己の知覚だとリヴは思う。

目が霞む。手足が言う事を聞かない。その忌々しい目眩のような一瞬の後、リヴの目が焦点を結んだのは、先程の部屋ではなかった。リヴが立っているのは見慣れた混沌迷宮ではなかった。

そこは確かに地下なのだが、何処かから陽光が入ってくる、気持ちが穏やかになるような部屋であった。石畳は白く高級な材で敷かれ、丁寧に意匠を施された浮き彫りを見ても、権力を感じさせる。

目を引くのは部屋の中央部にある黄金の鍵のモニュメントであった。

「リヴ殿、申し訳ない」

恐る恐る横に並んだソールは、開口一番そう謝る。

「閉めてはいけなかったのだな」

危うくリヴはソールを張り倒すところであった。なんと貧弱な危機意識か。

扉は開閉するものだ、と常人は思う。この青二歳は育ちも良さそうだから、閉まった扉が二度と開かない可能性など考えたことも無いだろう。

だが、二度と開かない事例は迷宮では良くある。閉じ込められてパーティと分断される、罠が起動する、全滅する。

だからこそ冒険者たちは施錠しないのだし、リヴは白の魔法使いの部屋の扉が薄くが開いていたことに戦慄した。

その感覚はまだ分からないのだと思う。無理もなかろう。

ただし迷宮に言い訳は通じない。駆け出しでも熟練者でも差別はしない。

だからこそリヴのような者が先に立って行くのだが。

(しかし私は、何故こいつの面倒を見ているのだ?)

自答するリヴをじっと見つめる視線を感じる。

「……して、あの美しい黄金色のものは、脱出するための鍵なのだろうか? 調べてみる必要がある、とは思うのだが。リヴ殿」

「動くな。さもなくば帰れ」

「私にも学習能力はある」

リヴが睨みつけると、ソールは固まった。蛇に睨まれた蛙だ。それでも健気にソールはリヴを見つめ返している。

だがリヴは何の感動も覚えず、溜息をついて現状把握に思考を切り替える。そうして視線を移すと、何と部屋はまた元通り、混沌迷宮の薄暗い室内に戻っていた。

ただひとつの違いは部屋の中央に、先程見た黄金の鍵のミニチュア版が浮かんでいる事である。リヴはその周囲をとっくりと観察してから手に取り、荷物袋に放り込む。

先程の幻視は白の魔法使いが遺していったものだろうが、それが今になって起動した理由が判然としないのが何とも気味が悪いのだった。

シナリオの説明があっさり目なのを良い事に、もりもりに盛ってしまいました。悪い癖です。あくまで今回の冒険においてはこうだった、ということでご容赦ください。 挿絵はミッドジャーニーによる「迷宮の部屋に浮かぶ黄金で出来た魔法の鍵」でした。