一日一歩のローグライクハーフ2/⑰ふたくぎり

ゴダイバの長の命を奪うことなく、無事に迷宮から帰還しました。事態は大きく動き出しそうですが、今はまず穏やかな時間を堪能するべきところです。

[ふたくぎり]

一行が迷宮から帰るなり、スネージの拠点は蜂の巣をつついたような大騒ぎとなった。何しろゴダイバ・オークがここに足を踏み入れるなど前代未聞の事態なのである。

それも長が、冒険者に連行されて、スネージとの話し合いの為にやってきたとなれば、動揺のほどは隠しようもない。

リヴとソールはあっという間に蚊帳の外へ追いやられ、森の外れに建てられた冒険者用の宿舎にひとまず留めおかれた。対応の優先度は低いが、余所へ出て行かせる気も無いということだ。

今はともかく迷宮探索の疲れを癒すことに専念する。そのうちに呼び出しもかかるだろう。

とはいえリヴは動いていた方がむしろ休まる。そこで釣竿を持って近隣の川へ出掛ける事にした。

ソールは何故か同じ部屋にいて、爪の先ほども心配していない様子で安らかな寝息を立てている。静かで良い。

スネージとゴダイバの全面戦争の噂は速やかに冒険者コミュニティに伝わっており、釣り糸を垂れに出た川にも先客が、すなわち時間を持て余した酔っぱらいが、あちこちに車座を作ってのんびりと談笑していた。

リヴの方を見て囃し立てる者もいたが、無視を決め込んでいたら徐々に静かになり、竿先に集中できるようになったので安堵する。

酔っ払いの顔面を陥没させるのは川魚を釣るより容易いが、百倍も無益だ。何も生まない暴力とは弱者の振るうものであろう。

エルフの川は豊かで、すぐに食べ応えのありそうな銀鱗の魚を二尾釣り上げることができた。

鱗を取り、腹を割いて内蔵を出すと、黒エルフ達から買ったキノコと雑穀と木の実を細かくしてつめる。酔っぱらいが転がして忘れたらしき鍋と、中身の残っている酒瓶を拾うと(所有者不明だし、放り出しておいた方が悪いのだ)酒蒸しを作った。

鍋に蓋をしてから、何故二人分作ったのかという疑問が湧いた。

青二歳の笑顔が脳裏に張り付いて、次に会ったら脳天をかち割りたくなるだろうと思う。世話を焼く理由など無いはずなのに。

そもそもあいつまで雇用する必要は無かったのだ。あの場の勢いと、恐らくは双方の体面を保つためにスネージは並列してリヴとソールの名を呼んだのだろうが、世話を押し付けられた体のリヴはいい迷惑だった。

剣を取り戻したのだから、命をわざわざ危険に晒さず帰ればいいものを。

死ぬのは勝手だが、目の前で死なれたくは無いとリヴは思う。

ひとりで食べてしまおうか。 そんな煩悶をしていると、折り良く(あるいは折り悪しく)ソールが鼻歌まじりに川原へやって来たので、リヴは戦鎚を持ってこなかったことを激しく悔やんだ。

「リヴ殿、おや、何と良い匂いだ! 本当にあなたは何でも出来てしまうのだな。素晴らしい方だ。私も学ばせていただかなくては」

にこにこと笑うので、ますます悔やんだ。

仕方なく蓋を取って見せてやると抵抗出来ない香りが漂い、押し流されるようにふたりで食べた。

「ときに、スネージとゴダイバの同盟は成ったそうだ。我々も準備を整えておかねばならんな」

――待て、何故やはり一緒に行く前提なのだ。お前がどうしてそこまでこの醜い縄張り争いを見届けようとするのだ。そんな義理はなかろう。

問おうとした時、集合の角笛が鳴る。

今度という今度こそ追い返してやるとリヴは心に強く誓った。

ということで、2回目の冒険はここまで! お付き合いありがとうございました。3回目の冒険はいよいよカオスマスターが登場するのでしょうね。ふたりと1頭の探索を引き続き応援していただければ幸いです。

2023/06/25まで『混沌迷宮の試練』は下記のURLで無料公開中です。

でもって『混沌~』の無料公開が終わっても、1stシナリオ『黄昏の騎士』は引き続き公開されているはず。

拙リプレイを読んで、これなら私にも楽しく遊べそうだなと思った方がいらっしゃったら、是非ともチャレンジしてみてくださいね。

良きローグライクハーフを!

https://ftbooks.booth.pm/items/4671946

リプレイを綴ったシナリオ二『混沌迷宮の試練』(FT書房、作:杉本=ヨハネ、監修:紫隠ねこ)の二回目の冒険。

「東洋 夏」がリプレイプレイヤーとしてお届けしました。