一日一歩のローグライクハーフ2/⑧ふたつの駒

火吹き獣「ひーちゃん」と三人連れの旅になった迷宮探索。スネージの長が無事であることを願いつつ先に進みます。トラップにゴーレムと、入り口らしからぬ仕掛けにであったことも、なお一層の不安を感じさせますが……。
【5枚目】12:ハチコロリ

リヴとソールはコビットたちのシチューを分けてもらい、短い休息を取った(生命点を1点回復)。

具材はキノコと肉で、脂がとろりと溶けて濃厚な口当たりだ。コビットたちが得意の投石器で打ち倒した迷宮の獣の肉だという。

他方では、ソールが熱心に火吹き獣の扱いを学んでいた。

コビットと兵士たちに別れを告げて、迷宮の探索を再開する。

先頭に立つのは火吹き獣。その横で、

「どうどう、ひー殿。勝手に歩んではならん」

ソールが良いように引きずられている。足がもつれて今にも転びそうだ。気高い獣は、ぽっと出の青二歳の指示に従うほど尻軽ではないのだ。

「黙って歩け」

背後から言葉を投げつけると、傷ついた顔でソールが振り向いた。

「多弁は弱さだ」 「しかし」

リヴに反論を受け付ける気は無かった。火吹き獣が自信に満ちて歩いているのは、慣れた哨戒ルートだからだろう。兵士たちは効率よく迷宮を回るように経路を決めているはずだ。ならば従った方が良い。

それに大声を出し、自分の居場所を喧伝することが迷宮ではどれだけ不利を招くことか――。

そんなことまで言葉にして口に出さねばならない相手と組んでいるのだと実感すると、改めてリヴはうんざりした。

不意に、火吹き獣が俊敏に首を振った。バランスを崩したソールは前に吹っ飛んで顔から着地。しばし痛みに悶絶してから、よろよろと立ち上がる。

「うっ……ぐ。猟犬になった気分だ。して、これを取らせたかったのか」

その手にあったのは香木。迷宮の虫除けである。ハチコロリと冒険者界隈では通称する。

「賢いな、ひー殿は。私であれば見逃すところであった」

ソールは勝手に動いた火吹き獣を責めるでもなく、むしろ褒めている。

(だから舐められるのだろうが、おまえは)

頭が痛くなってきたリヴである。

【6枚目】35:魔法使いの書斎

一行は、ある扉の前で足を止めた。

仄暗い迷宮には不釣り合いな白く輝く扉。多層に重なり合う複雑な白は、真珠母貝の内側を思わせる。

リヴも初めて見る扉だ。人を誘うように薄く開いているのも気味が悪い。

「……白の魔法使い」

ソールが呟いた。リヴは同意の証に頷く。

白の魔法使い。かつてこの地下城塞を支配した存在で、未だ迷宮に影響を残している。ゴーレムが良い例だ。

覗き込もうと意気込むソールを制し(「誰が火吹き獣を見る?」)、リヴは単身、部屋の中に踏み込んだ。

予想に反して荒れており、床には埃が厚く積もっている。敵意の気配は無いようだ。からくり仕掛けが発するような振動も感じない。

書斎だったのだろうか。棚から本が雪崩落ち、机を埋めている。

机の上に、奇跡的に落下を免れた小箱が載っている。これも誘うように微かに口を開き、薄らと燐光が漏れ出ていた。

リヴは戦鎚の柄で蓋を引っ掛け、押し上げる。何も起こらないことを確認してから中を覗くと、水晶を削り出した駒がふたつ。遊戯盤で使う駒だ。リヴを虚ろな目で見返した。

リヴは我知らず震え──我が身の惑乱という弱さを叱り──、駒を取り上げる。角度を変えて観察しても、水晶の駒の片方はスネージ一族の長に、もう片方はオークのゴダイバの長に瓜二つだったのだ

これは何を意味するのだろうか。

偶然などという虚無が有りうるだろうか。

リヴは駒を手に部屋を出た。

水晶の駒がいくつ手に入るかはダイスロールで決まります(そもそも見つかるかどうかにもダイスの判定が必要です)。今回は「2」となりましたので、即興で「今の情勢で2といえば対立する二種族じゃない?」と。これが後々、良いスパイスとなってくれました。自分で張った伏線がダイスの偶然で回収されていくのって、本当に楽しいですね。