迷宮には様々な出会いが待ち受けています。ローグライクハーフの良いところは、それらの出会いを「説明しすぎない、でも説明は足りてる」という絶妙な匙加減で演出してくれるフレーバーテキスト。想像力を膨らませて、でもアランツァ世界からは脱線しすぎないように導いてくれている感じがします。さて、ふたりの前に、ある人物が姿を現します。どんな出会いになるのか、ご賞味あれ。
では早速振ってみましょう。記念すべき第3層最初のイベントは──!
[1部屋目]13:活きのいいニワトリ
──ニワトリ!?
「む、見てくれリヴ殿。ほらほら」
ソールが活きのいいニワトリを抱えている。
「帰れ」 リヴは心底うんざりして言った。
「ニワトリよ、お前の家は何処だ? ひとりで帰れるか? かの輝ける女戦士にも心配をかけているようだぞ」
「違う」
「はて」
「お前に帰れと言っているのだソール!」
「はて???」
──ということで、ソールくんの荷物にニワトリが加わることになりました。どう扱えばいいんだ、この同伴者。
[2部屋目]16:魔法のツルハシ
リヴは真剣に腹を立てていた。
身の程知らずの青二歳に追いかけ回されては、カオスマスターを討つどころではない。今度という今度こそ迷宮から追い返し、いつも通り単独で挑むべきなのだ。雑音は不要。
そもそもあれとの契約は「スネージの長から剣を買い戻したい」という話で完結していたはずだ。
先日のゴダイバ・オークの長を一緒に探しに行ったのは、あくまでも頭に血が上ったスネージの長がまとめて指名したから止む無くである。
今回は違う。
カオスマスターを探すのに、この青二歳が何か役に立つか?
共に命を賭する義理はあるか?
否。
ならば、はっきり態度で示すべきだ。異なる解釈など生じさせる余地も無いほど強く。
ソールに背を向けて大股に歩く。部屋の南の扉から続きの間へ。
随分と頭に血が上っていたからだろう。リヴらしくない事に、その部屋が行き止まりであることをすっかり忘れていた。
そこは湿気った部屋だった。隅には水が染み出し、壁際には魔法のツルハシが乱雑に投げ出されている。ゴダイバ・オークが拡張工事をしようとしたが、水が出たから放棄して何処かへ行ってしまったというところか。リヴはツルハシを手に取り、荷物袋に放り込んだ。
そこではたと青二歳の顔が浮かぶ。
あれの荷物袋にランタンは入っているのか?
迷宮の灯りはランタンだけ。今まではリヴが手に提げていた。
いやいや、と考え直す。準備不足で迷宮に挑む方が悪いのだ。
それでも、暗闇の中で捕食者に追われるソール、罠で大怪我をするソール、孤立無援のまま倒れるソール、などありとあらゆる最悪の想像がリヴの心を苛むのだった。
リヴには分からなかった。ここまで一匹狼で生き通してきた。もちろんリヴにも親はいたし、冒険者としてのいろはを教えてくれた先達はいたけれど、人生を切り開いたのはあくまでも自分一人の力だった。
単独行動主義で冒険者家業を続ける以上、他者はすれ違うだけの存在で、心を傾けるというのは隙を見せるのと同義、弱さにつながるものだとリヴは知っている。
それなのにソールの世話を焼こうとしているのは、何故だ?
答えは出ない。それは自分が弱いからだろうか。リヴは自問する。その答えもまた出ない。
ただ、ここで見捨てると寝覚めが悪いことだけは確かなようだ。
少しだけ頭が冷めたところで、部屋を出る。
予想外に階段下の部屋は明るく、そして賑わっていた。 9人構成の冒険者パーティーがソールと火吹き獣を囲んでいる。その中心に立ってソールと交渉している剣士の姿を認めて、リヴは心臓に氷を差し込まれたような嫌な気分になった。
「<縞蛇>」
リヴが呼びかけると人の輪が崩れ、リーダーが振り返る。いやらしい笑いが顔に張り付いていた。レドナント近郊で悪評高い迷宮探索者である。
「なんだ、因縁つけようってか? こっちは手前に鼻を潰された野郎が使い物にならないんで、新人が必要なんだ。ま、お前のお下がりで我慢してやるさ、リヴァーティア」
親指をぐいとソールに突きつける。
「違う」
リヴは一歩前に出た。冒険者たちが左右に道を開ける。縞蛇が舌打ちした。
「手前の口はオークみたいに鈍重でいけねえな」
「雇い主だ」
「はーあ?」
「ソール・オ・リエンスは<私の>雇用主だと言った。二重契約は万死に値する。理解したか、腐れ耳」
戦鎚をどすんと床に叩きつける。石畳の床にひびが入った。
リヴより頭一つ半は低い己の背と、逃げ腰になっているパーティーの姿に素早く目を走らせて、蛇は唾を足元に吐いた。
「いくぞ、こんな馬鹿に構ってる暇はねえ」
蛇の率いるパーティーは、東側に伸びる通路へ、足音高く出て行った。